麦や大豆、飼料作物などに転作した水田に対して交付金が支払われる国の補助制度をめぐり、赤穂市高野の複数の農家が、実際には作付けしていないにもかかわらず、複数年にわたって交付金を不正に受給した疑惑が明るみになった。

　疑いがある耕地は少なくとも３０筆以上あり、合計面積は約１５０アール。それらすべての作付け作業を地元の酪農会社が受託し、交付金の一部を「作業委託料」の名目で受け取っていた。酪農会社を経営するＡ氏（６０）は、赤穂民報の取材に対し、「作ったか、作らなかったかと言われれば、不適切なところがあったかも知れない」と疑惑の一部を認めた一方、「それ以外はすべて栽培している。今年も４月から５月にかけて収穫した」と言い切った。しかし、かなりの面積について複数の周辺住民が「牧草なんか育っていなかった」「収穫どころか種すらまいてない」「不正は１０年以上続いている」と証言しており、疑惑は深まるばかりだ。

　交付金の名称は「農業者戸別所得補償制度」。水田を飼料作物に転作すると、１０アール当たり３万５０００円が支払われる。今年度は「経営所得安定対策」に名称が変わったが基本的な枠組みは同じだ。

　昨年度、高野地区からは約１０００アール分の転作計画が提出され、交付金は満額支払われた。転作面積の９割以上で牧草の「イタリアンライグラス」を作付けたことになっているが、複数の住民が「本当は栽培していない区画がかなりある」と指摘。中には現況が砂利を敷き詰めた状態の土地や沼地など、牧草の耕作が物理的に不可能と思える場所もある。

　同地区で飼料作物への転作が盛んになったのは平成１２年度から。ほ場整備に必要な住民負担を軽減する目的で、１０アール当たり上限７万円（当時）の交付金が出る転作に地区全体で取り組むことを申し合わせ、牧草の収穫に必要な機材を持っているＡ氏が作付け業務を個人農家から一手に引き受けることになったという。それ以降、同地区からは毎年度約７００〜１２００アール分の交付金申請が提出され、２４年度までの交付総額は５０００万円前後に上るとみられる。

　しかし、最初の申請段階から牧草の作付けに不適な耕地が複数含まれており、「なんで何も作っていないのに金がもらえるのか」と地域で話題になることも少なくなかったという。Ａ氏は赤穂民報の取材に対し、「ここは作っていない」と２筆で作付けしていなかったことを認め、「牧場の匂いで迷惑を掛けている地元の人たちから頼まれ、断れなかった。私の弱さ」と交付金を“迷惑料”としていたとする認識を示唆した。Ａ氏に作業委託している個人農家を訪ねたが、「体調が悪いので応対できない」「何も話すことはない」などと取材に応じず、唯一話が聞けた男性は「ちゃんと作ってくれているものと思っていた。自分ではいちいち見ていない」と語った。

　申請どおりに作物が栽培されているかどうかについては毎年７月１日を基準日として、市とＪＡ、赤相農済などで構成する「赤穂市地域農業再生協議会」が現地確認する取り決めだ。協議会事務局の市農林水産係は「現地確認は耕地を一筆ずつ目視するのが原則だが、高野地区ではこれまでしていなかった。書類と農業総代への聞き取りで確認を済ませていた」と明かした。同地区の農業総代は平成１９年度から昨年度までＡ氏が務めており、“現地確認”はＡ氏の会社事務所で行われていたという。同係は「現地確認が甘かった点は否めない」とうつむいた。

　同地区のある男性は「Ａ氏は国から褒章を受けた人物。このようなことが許されるのか」と憤る。「かなりの人がこの問題に関わっている。村全体の感覚が麻痺している。村ぐるみの不正と言われても仕方がない」と嘆いた。別の男性は「一目でおかしいとわかる土地もある。『知らなかった』では済まず、役所も責任を問われるべきだ」とチェックのずさんさを非難した。

　同係は「再確認が必要な箇所があることは認識している。国、県と対応を協議する」としているが、結局は当事者への聞き取りや酪農会社の作業日誌に頼らざるを得ず、真相解明には限界も感じられる。

　▼制度を所管する農林水産省経営安定対策室の談話＝「個別の案件にはコメントできない。一般論としては、疑義情報の提供があれば国が直接立ち入り調査を行う。その結果、申請内容に偽りがあれば交付金は支払わないし、過去に交付したものは利息を加算して返還を求めることになる」

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掲載紙面（PDF）：
2013年8月10日(2049号) 1面 (8,962,908byte)
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