赤穂民報

関西福祉大学リレーコラム・「ケア」の精神(7月9日)

 「本当に大切なものは目に見えない」という言葉で有名な童話『星の王子さま』の作者であるサン・テグジュペリは『城砦』という未完の作品を残して大空で消息を絶ちます。
 まだ第二次世界大戦の戦火の激しい最中の1944年7月31日、ドイツ戦闘機に撃墜されたではないかと言われていますが、死の謎は謎のままです。
 『星の王子さま』しか知らなかった私が『城砦』のことを知ったのは、岡山県の長島愛生園に勤務していた精神科医の神谷美恵子氏の随想『人間をみつめて』(みすず書房)の一節がきかっけでした。
 「人間は何かひとつの仕事に打ち込むことによって、その仕事と生命を交換するのだ」
 このサン・テグジュペリの「交換の思想」を神谷は「自分のいのちを注ぎだして、何かをつくりあげること。自分より永続するものと自分とを交換すること」と表現しています。
 私は、この言葉に出会った時、これはまさに教育の営みそのものではないかと思った覚えがあります。そして教育とは、教える人(教師や親)が、自分より永続するもの(子ども)のために自らのいのちを注いで、子どもたちを育てていく営みであると考えるようになりました。
 先日、本学の卒業生がまだ学生だった時、未来の自分に対してどのような願いをもっていたのか、また、現在、職業を通して社会とどのように関わり、生きていこうとしているのか、というこれからの自分の未来について語っている言葉にふれる機会がありました。その機会を通じて、教育がどのように「未来」をつくるのかということについて多くの示唆を得ることができるとともに、教育は子どもたちの思いを未来につなぐ営みだということを改めて実感致しました。
 私は発達教育学部で「教育相談」という授業を担当し、スクールカウンセラーとしても中学生や高校生、保護者の方の悩みを聞かせていただく活動をしていますが、その経験を通じて、教育という営みにおける「ケア」の精神の重要性を痛感するようになりました。教師が目の前で困っている子どもに気づくこと、そしてその子どもや保護者のことを理解し「ケア」することは、現在強く求められていると考えています。
 これから5回の連載を通して、教育における「ケア」の精神について皆様とともに考えていきたいと思います。(市橋真奈美・発達教育学部講師)

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