赤穂民報
関西福祉大学リレーコラム・学びについて考える(3)子どもが育つ環境(11月12日)
“環境”といえば、動物や植物などの自然環境はもちろんのこと、身近な存在である親や先生、ともだちなどの人的環境、建物や場所を含む物的環境があります。子どもの発達の道筋とその時期に必要な環境についてお話ししたいと思います。
乳児期は、見たり聞いたりして周りの環境を把握していく時期ですが同じものでも区別することはできません。例えば赤いボールと青いボールは、「ボール」という共通点をもたないまったく別のものとして捉えています。乳児期には温かく見守り、多くの情報を安全に獲得させるやさしい大人の環境が大切です。
幼児期は、前操作期とよばれ、「ごっこ遊び」をよくします。例えば、「おままごと」では目の前にない食べ物を食べたり、家庭の役割になりきって遊んだりするなど概念的思考が成立してきます。つまり、目の前にあるものだけでなく、前にあったものや役割などを捉えることができるようになるのです。
この時期には、遊びに必要な場所やおもちゃが重要な環境といえるでしょう。しかし、子どもが想像する余地のない完成された環境やおもちゃは、想像力を育てる妨げになることがあります。単純で何にでも見立てられるものを用意するのがよいでしょう。
小学校入学後からの児童期は具体的操作期といい、自分で道具を選択し、用いながら考えを創り出す時期なので、比べる操作のできる環境が重要です。この時期に必要なのが、「アハ!体験」です。乳児期や幼児期に環境から学んだことを「ああそうだったのか!」と関連づけて再認識するのです。
子どもは、自分の感覚から得た情報を、記憶の奥深くにしまっており、類似の体験をしたときに、関連させ「思いつき」「考える」ようになるのです。教え込んだり、完璧にすることを期待したりしないようにしましょう。
子どもに具体的体験をさせるには、日常の生活に潜んでいる不思議を多く見付けさせ、一緒に考え、試していく大人の存在が必要なのです。自然の植物や動物と多く触れさせ、作ったり試したりする体験のできる環境が重要です。動物園、植物園や博物館にはこのような環境が多くありますし、キャンプや釣りやハイキングなどに行くこともよい環境作りだと言えるでしょう。
家庭では料理を手伝わせましょう。かたくて切るのに苦労するサツマイモが火を通すと柔らかくなることや、ほうれん草のゆで汁が緑色になることを見ると「お肉は火を通すとかたくなるのにどうして」「卵はゆでても色が変わらないのになぜ」などという疑問を持つことでしょう。
そのとき、「それはね」と答えを教えるのではなく、「他に同じようになるものはない?」「調べてみようか」と持ちかけると、子どもはどんどん試してみたくなって自分の頭で考えるようになるのです。
「間違ったことを覚えたら困るから」と心配する事はありません。そんなとき子どもは「アハ!体験」を通して、自分で新しい知識に塗り替える喜びを得ることになるのですから。
次回は、どのような声かけが子どもの「考える力」を伸ばすのかについて考えていきましょう。(金沢緑・発達教育学部教授)
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