赤穂民報

美術工芸館図録に真贋疑惑 販売休止(4月8日)

 赤穂市立美術工芸館田淵記念館が昨年11月に刊行した平成28年度特別展「激動の時代、幕末志士たちの美−藤本鉄石と河野鉄兜を中心に−」の展示品図録について、個人研究家から「贋作もしくは真筆とは断定しがたい物が多数含まれている」と指摘があり、同館が図録の販売を休止していることがわかった。同館は「再確認が必要と判断した。調査した上で今後の対応を検討したい」と話している。
 特別展は勤王派の幕末志士、藤本鉄石(ふじもと・てっせき、1816−63)の生誕200年と同時代の漢詩人、河野鉄兜(こうの・てっとう、1825−67)の没後150年を記念し、今年1月16日まで2か月間の会期で行われた。赤穂をしばしば訪れた二人の遺墨を中心にゆかりの人々の絵画や書などを展示。図録はA4判96ページで展示品66点すべてをカラー写真で収録し、「往時の志士たちの心情を美的観点から窺い、幕末の時代に思いを馳せていただければ幸いです」などと趣旨が述べられている。
 疑義を指摘したのは、河野鉄兜研究家の前嶋第誓(だいせい)氏(54)=姫路市網干区=。郷土の偉人である鉄兜について約30年間にわたって研究し、遺墨約100点を収集している。姫路市文化財課によれば、「知る限りでは、鉄兜研究において最も詳しく、鑑定眼も確か」とされる。
 特別展で鉄兜関連として展示されたのは掛軸や襖など30点で1割が館蔵品、9割は複数の個人から借り集めたものだった。同氏は1月11日に同館で展示を目にし、「真贋が不明確な物、もしくは明らかな贋作がある」と気付いたという。その日は管理職が不在だったため翌日にメールで抗議し、回答を求めた。展示を担当した学芸員が15日に同氏と面会し、「内部で協議した上で返事する」と答えた。同館は2月6日までに図録の販売を休止。発行した600部のうち461部が頒布済みという。
 前嶋氏によれば、鉄兜は明治から昭和40年代にかけて評価が高まり、その遺墨は「平均的な月給が20円から40円の時代に最も高額なものだと200円で取引されていた」ほど人気があった。鉄兜を専門とした贋作者も存在し、骨董商の間では「世の中に『鉄兜の書』として出回っている作品の7〜8割は贋物」とも言われている。姫路市文化財課も「鉄兜に贋作が多いのは事実。学術的な研究が確立されているとはいえず、慎重に真贋を見極める必要がある」と指摘する。
 赤穂民報が他自治体の複数の学芸員に聞いたところ、書の真贋を判断する手順としては、まず作品全体を概観し、書風や筆遣い、筆圧に違和感がないかチェックする。紙質と制作年代に矛盾がないか確認し、落款印が偽印ではないか印影を検証するのが一般的だという。
 前嶋氏をはじめ他の収集家の話では、鉄兜の落款印の真贋を判定する際の一つの基準となるのが大正13年に刊行された印譜集『秀野堂印存』(三宅緑邨編)。鉄兜没後に長男・天瑞(たかのぶ)氏所蔵の260点近い遺印を直接紙に押して100部製本したとされ、数部の現存が確認されている。前嶋氏は昨年3月、「真贋の判断基準に役立てば」と自己の所有する印譜集を基に復刻版を刊行した。
 同館は印譜集及び復刻版の存在を「特別展が始まる直前の11月」に知ったという。「それをさらに検討してしまうと、展示が開催できなくなってしまう」「印譜集に載っていない印が押されているからといって贋作だと断定できない」(担当学芸員)などとして印影の検証は行わず、当初の予定通りに特別展をスタートした。
 前嶋氏によると、特別展で展示された鉄兜関連の作品のうち、確かに真筆と判断できたのは館蔵品と田淵氏所蔵のものを除くと3割に満たず、中には「別人が書いたと一目でわかるものもあった」という。「公的施設でありながら真贋に対する配慮が全くなされていない。このままだと、贋作に『真筆』とのお墨付きを与えることになる」と批判する。
 一方、同館は「所蔵者に作品の出所来歴を確認した上で、鉄兜の作品とされるものをお借りして展示した。当館としては最善の準備を尽くした」と反論。図録の販売を休止したまま、前嶋氏以外に鉄兜の真贋を鑑定できる専門家を探している。
 この問題について、赤穂市文化財保護審議会の木村重圭(しげかず)会長(美術工芸、元甲南女子大学教授)は「美術館として再検証を行う必要がある。ただし、検証結果を公表するかどうかは、所蔵者との関係もあるため、慎重に判断しなければならない」と話している。

(真贋疑惑を指摘され、販売休止となっている特別展の図録)

カテゴリ・検索
トップページ/社会/政治/文化・歴史/スポーツ/イベント/子供/ボランティア/街ネタ/事件事故/商業・経済/お知らせ

読者の声
社説
コラム「陣太鼓」
絵本の世界で旅しよう
かしこい子育て
ロバの耳〜言わずにはおられない
赤穂民報川柳
私のこだわり

取材依頼・情報提供
会社概要
個人情報保護方針

赤穂民報社
analyzer