赤穂民報

関西福祉大学リレーコラム・小学校の教室から学んだこと(4)(6月3日)

〜がまんは子どもの特権〜
 「冬は雪が多くて嫌だなあ」それが、私の故郷福井への思いの一つです。冬になるといつも空は鉛色。風も強いのです。今と違って、当時は雪も多く、毎日スキーウェアを着て登校しました。
 さてそんな私が、教師になって、驚いたことの一つは、登下校の時に、天候が悪くなると車で学校の近くまで送り迎えしてもらっている子がいたことです。新米教師の私は、「時代が変わったんだなあ」と妙に納得したのを覚えています。
 しかし、だんだんと子どもたちの遊び方や持ち物を見るにつけ、疑問に思うことも…。例えば、友達の家に行ってお泊り会をする子、自分専用のテレビを持っている子…。私が子どものころ「こんなことができたらいいなあ。大きくなったらしていてみたいな」と思っていたことが、今の子どもたちにはどんどん実現されています。大人が子どもの頃にしてみたかったこと、いやだなあと感じたことが簡単にできる時代になったのです。
 しかし、ふと思います。「本当にそれがいいのだろうか?」って。今のおじいさんおばあさん、そしてお父さんお母さんの世代もみんな、今と比べれば、ある程度の不便さや自然体験をしています。そして、大人になってから、便利さを享受しているのです。一方、子どもたちは、どうでしょう。「簡単にできないな。」「思い通りにはならないなあ。我慢しなくては」ということは、昔の子どもたちと比べればはるかに減っているのではないでしょうか。
 約30年前に小学校の低学年に生活科ができ、昔の遊びや自然のものをつかった遊びなどを授業に取り入れることになったのも、子どもたちの「体験」が少なくなってきたからです。社会はどんどん変化しますが、人間自体が自然の理の中の存在であることは変わりません。
 ですから、少しの不便さやそれにともなうがまんは子どもたちの体験を豊かにします。「大人になったらできること」は「子どものうちはしなくていいこと」なのかもしれません。がまんは罰ではありません。「子どもが我慢することで、経験できることや得るものは何なのか」と考えるのも家庭教育の醍醐味の一つかもしれませんね。
 そう思ってみると、嫌いだった福井の雪は、その冷たさや冬の寒さを教え、暖かく晴れた春の日の訪れのうれしさを私に深く教えてくれたのですね。(新川靖・発達教育学部助教)

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