赤穂民報

関福大リレーコラム・赤ちゃんは有能な存在(3月2日)

 赤ちゃんは英語で「infant」ですが、その語源を知っていますか。
 fantは「話す」、inは「否定」の意味をもつので、infantは「話せない人」という解釈になります。生後間もない赤ちゃんは「話せない人」に違いないのですが、それ以上に、人としてあまりに未熟で無力な様をその言葉に込めたとも言われます。
 ジョン・ロックは「人は『白紙』の状態で生まれる」と言い、「白紙」に赤ちゃんの無力さを表現しました。このように、子どもを「無能で未熟で劣弱な存在」と捉え、大人に近づけることが社会の役割と考えられた時代がありました。今はそれ程ではないにしても、やはり「赤ちゃんは何もできない」と考える人は少なくないでしょう。果たして赤ちゃんは本当に未熟で無力な存在なのでしょうか。今回は赤ちゃんの能力について、ほんの少しですが、お話しましょう。
 例えば、32週目頃の胎児。彼らは「外」の音の聞き分けると言いますが、何と、その音を生まれた後も覚えているようなのです。生後間もない赤ちゃんに、母親の声と別の女性の声を聞かせた研究によると、胎児期によく聞いた声(=母親の声)に強く反応したそうです。また、日本人にとってr(アール)とl(エル)の違いを聞き分けることは至難の業ですが、赤ちゃんは遊びながらやって退けます。生後しばらくは、世界中の国の音素を聞き分ける能力を持つというから驚きです。
 人の顔への認識も早く、最初は何に対しても(お面にさえも)笑顔を見せますが、そのうち、いつも自分の近くにいる人にだけ笑顔を向けるようになります。知らない人に抱っこされて泣くのは、信頼する人の顔を記憶し、それ以外の人の顔と区別できている証です。お分かりでしょうか。彼らは色々な才能をすでに持っていて、環境に合わせてそれをバージョンアップさせているのです。
 少し難しい表現をするなら、その才能の正体は「神経細胞」です。出生時、140億個以上の膨大な数がすでに準備されています。神経細胞を「花の蕾(つぼみ)」に例えるなら、ここに水が入り、花がゆっくりと開く様なイメージでしょうか。「水」は環境からの「刺激」です。人からの働きかけはもちろん、音や光、動きなどすべてが刺激となり、彼らの世界をより豊かにしていきます。赤ちゃんは、自分の可能性を最大限に引き出すために、あえて蕾を閉じたまま「外」に出る道を選んだのでしょう。
 私たち大人ができること。それは、抱きしめ、話しかけ、目を合わせて笑い合うことです。「抱き癖」を心配する声も聞きますが、心配不要です。抱きしめられる時に、思い切り抱きしめてあげて下さい。人の肌の温もりそのものが、赤ちゃんの感情を安定させ、信頼感の土台を作り、知能の発達を促します。
 次回は、親と子どもの心の絆―「愛着」についてお話します。お楽しみに。(教育学部児童教育学科教授・大山摩希子)

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