赤穂民報

関福大リレーコラム・お母さんと赤ちゃんの心の絆―愛着(1)(3月30日)

 母子間の関係は双方向に影響を与えながら変化していく、というのが現代の愛着論です。
 しかし、乳児が「infant」や「白紙」と捉えられていた時代、母子間の関係は「母→乳児」という一方向が前提で、乳児は「世話を受ける側」であり、常に受け身でした。そして、母親の役割や愛情は、授乳や着替えなど身の回りの世話をどれ程きちんと行っているかで測られたのです。
 ちょうどその頃、奇妙な現象が報告されました。親から長期間離され施設等で育てられた複数の乳児に、情緒的な障害や身体的発達の遅れが見られたのです。当時はその原因が見当たらなかったことから、現象名として「ホスピタリズム(施設病)」と呼ばれました。そのような時、ハーロゥの研究が発表されたのです。
 ハーロゥは、アカゲザルの赤ちゃんを二体の模型がいる部屋に入れました。一体は「針金ママ」で、もう一体は「毛布ママ」です。針金ママは堅くて冷たいのですが、ミルクをくれます(針金の隙間に哺乳瓶が固定されています)。毛布ママは触ると温かいのですが、空腹は満たされません。さて、アカゲザルの赤ちゃんはどちらを選んだと思いますか。
 実は、ミルクを飲むとき以外は、ずっと毛布ママにしがみついて過ごしました。部屋の外から少し脅かしてみると、部屋のどこにいても、毛布ママに向かって走りました。この研究から分かったこと、それは、アカゲザルの赤ちゃんにとって大切なものは、ミルクよりも「温かい肌感触」であったということです。
 この研究結果をそのまま人に当てはめることはできませんが、アカゲザルの赤ちゃんの行動は、母子関係の在り方を見つめなおすヒントを与えてくれました。この研究の後、授乳や着替えなど「世話のための抱っこ」から、「肌接触のための抱っこ」へと考え方が変わりました。子育てにおいて、スキンシップの重要性が認識されたということです。
 赤ちゃんは、自分に笑いかけ、抱きしめ、泣けば駆け付けてくれる人を「特定の人」と位置づけ、信頼感を抱くようになります。そして母親も、赤ちゃんとの接触を通して一層の愛情を抱くようになります。このような母子間の情緒的な絆をボウルビィは「愛着」と呼び、スキンシップがその成立に不可欠であると考えたのです。
 赤ちゃんが母親に抱く信頼感は、その後の赤ちゃんの知能の発達や対人関係を支えていきます。赤ちゃんは知的好奇心を持って生まれますが、同時にとても用心深いので、初めて見るモノや人に対してすぐに手を伸ばしたり、近寄ることはしません。しかし、近くに愛着対象がいると、むしろ進んで新しいことにチャレンジすることが分かっています。結果的にこのチャレンジ行動が、知能の発達や対人関係の形成に結びつくというわけです。
 ただし、愛着関係はいつでも自由に結べるわけではありません。愛着の形成には、タイムリミットがあるのです。次回をお楽しみに。(教育学部児童教育学科教授・大山摩希子)

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