赤穂民報

関福大リレーコラム・お母さんと赤ちゃんの心の絆―愛着(2)(4月26日)

 母子間の愛着は、いつでも無条件に成立するわけではありません。タイムリミットがあります。心理学の「臨界期」という言葉を使って説明しましょう。まずは、鴨の親子を例に挙げます。
 親鴨の後を懸命に追いかける子鴨たちの姿を、テレビなどで見たことがあるでしょうか。これは「刷り込み」というプログラムにより成立する追従(ついじゅう)行動で、鴨の生まれ持った才能です。ローレンツが発見しました。彼が庭を散歩中に巣から落ちたヒナを偶然見つけ育てところ、ローレンツに追従し、彼のメイドに求愛ダンスを踊ってみせました。そして、二度と自分の群れには戻らなかったそうです。
 親鴨に追従するヒナの姿は見た目には可愛らしいものですが、ヒナにとって何に刷り込むかは人生をかけた一大イベントです。刷り込みは一度成立すると、容易に変更できないからです。ローレンツに刷り込んだ雛鳥は「人間」になるしかありませんし、ゼンマイ仕掛けの鳥に刷り込んだ雛鳥は…とても困ることになります。
 そこで「臨界期」の登場です。刷り込みはいつでも起こるわけではなく、「臨界期」と呼ばれる期限内に成立します。鴨の刷り込みの臨界期は、孵化後「13〜16時間」とわれ、これより早くても遅くても、成立しません。短いようですが、この期限があるからこそ雛鳥は親や仲間を間違えずに済むのでしょう。孵化の前後に雛鳥の傍にいるのは、恐らく親鳥でしょうから。
 この「臨界期」が人の愛着形成にも存在すると考えられており、ボウルビィは「3歳頃まで」と仮定しています。つまり、生まれてから3年間が、人生の中でもっとも愛着を形成しやすい時期ということになります。その中でも、最初の1年間は特に重要な時期と考えられています。
 一方、母親の側にも愛着形成のためのスイッチが内蔵されていて、乳児の体温を感じ、仕草を目にすることでONの状態になります。出産直後の「カンガルーケア」が話題になりましたが、母子間の愛着形成の順調なスタートにおいて、とても理にかなった方法と言えるでしょう。
 愛着形成の過程で子どもは、他者への信頼感を高め、自身を大切に思う気持ちを育み、環境を変える強さを手に入れ、人とのコミュニケーションの基礎などを学ぶと言われています。子どもが親と出会ってからの最初の3年間が、その子の長い人生を支えることになるわけです。
 次回は子どもの「やる気」についてお話ししましょう。お楽しみに。(教育学部児童教育学科教授・大山摩希子)

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