赤穂民報

関福大リレーコラム・礼儀作法は『厳しさ』の美学(9月28日)

 江戸時代、江戸、今の東京では、傘を差してすれ違うときに、互いに傘を外側に傾けて通り抜ける習慣があったそうです。
 こうした習慣は「かさかしげ」と呼ばれ、小さい頃から教えられました。ほかにも、「肩引き」「かに歩き」といって、一方の肩をひき、横歩きをしてお互いにすれ違うしぐさがありました。また、船に乗るとき「こぶし腰うかせ」といって、後から乗る人のことを考えて、こぶしをついて腰を浮かせ、席をおくへとつめました。
 これらを「江戸しぐさ」といいます。しぐさは、今の言葉で言えば「礼儀作法」です。江戸に住む人たちが身に付けてきたしぐさは、動作だけでなく、言葉、表情、考え方など、生活する上での心の様子をよく表しています。みんなが平和に気持ちよくくらそうという願いがあります。
 だれでも自分の思うようにしたい。しかし、個人が好き勝手にしていたら社会は混乱します。自動車が交差点で事故を起こし渋滞してしまうように、身動きできなくなってしまいます。自動車が思い通り進むためには、交通ルールに従う必要があります。個人のレベルでもルールが必要で、例えばルールのない話を聞いていると時間のむだだと感じます。話のルールとは、話にけじめがあるということです。自分の話に人がどんな反応をするかを、わきまえて話すことです。
 昔のゴルファーの第一のルールは『そこにゴルフをしない人がいたら、決してゴルフの話をしない』というものでした。こういう気持ちは、話の中に相手の身体的特徴に触れないとか、ことばのことだけでなく、回転ドアを押した場合は次の人のためにドアを支えてあげるとかの動作になります。これは、人の思いやりに属することです。つまり『良いマナー』ということです。
 ルールやマナーは英語ですが、日本語では『礼儀』『作法』となります。作法とは『動作の方法』の略だということです。例えば日本間のふすまのひきての位置や形は、きちんと座って両手でふすまを開け閉めする動作に適当なように作られているということを聞いたことがあります。そういう動作をしないと、その道具はきちんと動いてくれません。どんな道具にも持ち方や使い方があるものです。
 こんな見方をすれば、どんな作法にも『正しさ』と同時に『美しさ』があることに気がつきます。例えば板前さんが、長髪でないのは、長髪は抜け毛が落ちたり、髪の香料が食器や料理に移る可能性があるからだといわれています。お客さんを大切にし、自分がそんなことに気を使わずに、しごとに集中できるようにするからだと思います。それが、板前さんの気質となって、ひとつの美をなし『板前職人らしさ』という文化になるのでしょう。
 どんな『らしさ』にも正しさと美しさがあるといわれます。この『美しさ』は、ほんとうは『厳しさ』と書いて「うつくしさ」と読ませたいといいます。厳島を「いつくしま」と読みますが、この読み方は「うつくしさ」→「いつくしさ」を意味するのだそうです。
 さて、みなさんは、どうですか。「〜らしさ」に自分の名前を当てはめて考えてみて下さい。難しいですが、生活をよりよくするためのヒントにしてください。(小野間正巳・教育学部児童教育学科教授)
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 次回からは教育学部児童教育学科の秋川陽一教授が担当します。お楽しみに!

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