赤穂民報
赴任先の比でコロナ封じ込めに奮闘(4月25日)
救急と防災の取り組みが未発達な海外で専門職を育てるため、フィリピンに単身赴任している板屋町の救急救命士、木村隆彦さん(58)が赴任先で新型コロナウイルス感染防止活動に奮闘している。
本来は1年間の任期を終えて3月末に日本に戻る予定だったが、フィリピン全土の空港封鎖により航空便が運休。木村さんはそのまま現地に残り、現地の救急隊員とともに感染防止に尽くす道を選んだ。
水難事故死をなくすための着衣泳「浮いて待て」研究で博士号を取得し、マレーシアやタイ、スリランカなど海外7カ国で普及啓発を行ってきた木村さんは昨年3月末、35年間勤めた赤穂市消防本部を早期退職。着衣泳の指導で4年前に訪れたアクラン州の州都・カリボ町(人口約8万5千人)の行政機関から「水難救助だけではなく救急と防災も含めて指導してほしい」との要望を受け、昨年4月に渡航した。1年間の雇用契約を結んだ上で報酬を辞退し、同町防災課の救急防災管理官に就任。より安全な救急搬送や防災対策などについて現地の職員や住民に啓発した。「スムースにコミュニケーションを取れるように」と特別に小学校に“入学”して1年生、2年生といっしょに英語を学んだ木村さんを、住民らは親しみを込めて「タカ」と呼び、惜しまれつつ先月28日に飛行機で日本に戻る予定だった。
ところが、出国を半月後に控えた3月13日、首都マニラで一日に50人を超えるコロナウイルス感染者が確認され、大統領が国内空港の閉鎖を発表。さらに1週間後には国際線の運航も制限がかかり、予約していた便もキャンセルとなった。日を変えて数少ない航空券を入手することは不可能ではなかったが、3月30日にカリボ町で最初の感染者が発生したことを受け、「これは自分に与えられた使命」と、感染防止対策に協力するために居残ることを決心した。
アクラン州など4州があるパナイ島では、島内で感染者が確認されていなかった3月18日に都市封鎖が決定し、カリボ町でも即座に実行。島内他市町への移動を禁止するとともに、夜間外出禁止令を出した。その結果、同町では初日には夜間外出違反者10人が逮捕された。同町で1人目の感染者が確認されると、感染流行地域の滞在歴がある本人及び関係者すべての789人をそれぞれの自宅に14日間隔離した上で、全住民を対象にロックダウンをかけるという大胆な対策をとった。これによって住民は一切の外出に制限がかかり、全ての自治会境界に検問所が設置された。
木村さんは同僚職員とともに市町境の検問所での移動者の検温、住民への手洗い・マスク着用の啓発活動などに従事。今月21日からは町内で2番目に大きい救急病院の安全管理部長にも任命された。病院が設置している救急医療サービス(救急隊)と共に、院内感染予防対策を進めるとともに、病院救急隊員の知識・技術の向上を担っている。
現地では医療従事者をはじめ、危険の最前線に立って職務を果たす人を尊敬の念を込めて「フロントライナー」と呼ぶ。中でも異国の地からやって来て無報酬で活動にあたっている木村さんに対する地元住民の感謝は大きく、素直に外出自粛に協力し、また、防災課へマスクや食事などを寄贈する人も相次いでいるという。
町長自ら広報車に乗って住民に感染防止を呼び掛けるなど、ありとあらゆる取り組みが功を奏し、同町では4月13日、隔離789人のうち786人が感染を疑う症状がないことが確認された。あとは陽性反応が出た3人が回復すれば第1波のウイルス根絶が完了する。
「まだ予断を許す状況ではないが、現在のカリボ町は安全と言える」と木村さん。航空券が確保でき次第、帰国の途につく。今後も水難事故防止を中心に「命を守るための仕事」を続ける予定で、「今回の赴任中は台風による洪水も経験し、自分にとっても想像を超える学びの機会となった。この経験をこれからの活動に活かしたい」と話している。
(町境で検問活動に従事する木村隆彦さん)
カテゴリ・検索
トップページ/社会/政治/文化・歴史/スポーツ/イベント/子供/ボランティア/街ネタ/事件事故/商業・経済/お知らせ
読者の声
社説
コラム「陣太鼓」
絵本の世界で旅しよう
かしこい子育て
ロバの耳〜言わずにはおられない
赤穂民報川柳
私のこだわり
取材依頼・情報提供
会社概要
個人情報保護方針
赤穂民報社