赤穂民報

《市民病院医療事故多発》あまりに多い問題点(上)(12月31日)

 赤穂市民病院(藤井隆院長)の脳神経外科に在籍していた男性医師(43)の手術で2019年7月以降の約8か月間にレベル4(事故による障害が一生続く場合)の医療過誤(過失のある医療事故)1件を含む計8件の医療事故が相次ぎ、医療過誤の被害患者と家族から赤穂市と男性医師に対する損害賠償請求が提訴された問題。

 なぜ、同じ医師が事故を繰り返すのを止められなかったのか。これまでの取材から浮かび上がってきた病院の隠蔽体質や疑惑など数多くの問題点を2回に分けて報じる。

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遅きに失した手術禁止命令

 病院は8件の事故の発生時期を明らかにしていないが、訴状によれば、医療過誤が起きた2020年1月22日の手術までに男性医師の執刀により、すでに4件の医療事故が発生していたという。そして、その後2月末までにさらに3件の医療事故が続いた。病院は3月1日にようやく男性医師の手術を禁止した。

 赤穂民報が入手した赤穂市民病院の「医療事故報告件数」によれば、2019年度に同病院で発生した手術中の医療事故は8件。つまり、同じ年度内に同病院で起こった手術中の医療事故はすべて渦中の男性医師が関わっていたことになる。

 同病院が医療事故発生時の対応を定めた「医療安全対策実施要項」では、重篤な医療事故が発生した場合は過失の有無を問わず、直ちに院長や医療安全推進室などに一報し、24時間以内に報告書を提出する取り決めとしている。そして、レベル4以上の医療事故であれば、院長の指示で「院内医療事故調査委員会」を設置し、原因究明と再発防止策検討を行うこととしている。

 一連の医療事故について、実施要項の定めのとおりに報告は行われたのか、医療安全推進室はどのように対応したのか、また、事故調査委は原因と再発防止策をどのように特定したのか。情報公開請求に対し、病院は「個人情報及び争訟に係る事務に該当する」などとして事故調査委の議事録はおろか次第すら非開示とした。

 今のところ、真相は闇の中だが、もっと早い段階で手術を禁止していれば、8件も事故を重ねることはなかった。病院の判断は遅きに失したと言わざるを得ない。

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安全に手術する技量あったのか

 男性医師は医局に属さないフリーの医者で、赤穂市民病院の医師募集に自ら応募してきたという。ある市内の医療関係者は「中途採用する場合は、前任の病院に技能や経験、勤務態度などを聞き合わせる。まして、医局に属していないのなら、慎重に調査した上で採用するかどうか判断するのが当然」と話す。

 取材では、男性医師の前任地は京都府内の病院だったことがわかっている。被害患者の家族は医療過誤の後になって男性医師を知る医療関係者から「術中の止血ができない」「手術をさせるレベルの手技ではない」「(手術を)大根切るくらいにしか思ってない」などの評判を聞かされたという。

 赤穂市民病院は男性医師の採用を決定する際、どこまで技能や経験などを確認、調査したのか。把握せずに採用したのであれば調査不足の批判は免れないし、把握した上で採用したのであれば、なぜそのような医師に手術を任せたのか。いずれにしても、病院の落ち度は否めない。

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8件続いても事故公表せず

 実施要項には、「重大な事故が発生した場合、医療機関自らが、事故の事実を正確かつ迅速に社会に対して公表する必要がある」と、マスコミへの公表を原則としている。しかし、今回発覚した8件の医療事故はいずれも公表されていない。

 実施要項は、マスコミ公表する対象について、「明らかに誤った医療行為や管理上の問題により、予期しない形で、患者が死亡若しくは患者に障害が残った事例、或いは濃厚な処置や治療を要した事例を対象として検討する」とし、「医療行為や管理上の問題が、原因として疑われる場合も含む」と但し書きを付けている。

 8件の事故のうち、病院が事故レベルを明らかにしたのは医療過誤の1件のみだが、通常は行うことのない外部有識者による検証を8件すべてで実施していることや、残り7件の中には病院が「合併症によるもの」などとして因果関係を否定しているものの患者が死亡した症例も含まれており、少なくともマスコミ公表を検討すべき事例だったことは間違いない。

 病院はマスコミ公表を検討したのか、しなかったのか。検討したのであれば、なぜ非公表と決定したのか。病院は「係争中のため答えられない」との口実で説明責任を果たしていない。もし、早い段階で医療事故を公表していれば、防げた事故もあるのではないか。病院の不作為責任が問われる。

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医療過誤件数食い違う主張

 先述のとおり、病院は8件の事故について外部有識者に検証を依頼。その結果を基に「医療過誤は1件で、それ以外は医療過誤ではない」と病院として判断したという。

 一方、男性医師は裁判に提出した書面で「(自身の)施術が原因となって障害が生じたと考えられる症例は、本件を含め2例」とし、病院が認めた以外にも医療過誤がもう1件ある可能性を認めている。

 医師本人が過失を認めているにもかかわらず、病院は否定するという状況となっており、外部有識者による検証あるいは病院の事故評価の甘さが疑問視される。

 また、被害患者の家族によると、提訴する前の段階で医療事故報告書の開示を求めたが、病院は「こちらの意見が記載されているものに関しては一切見せられない。裁判所の命令があれば提出する」と拒否したという。患者側にすら、ありのままを伝えようとしない病院の対応は院是の「恕」(思いやり)からはかけ離れている。

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市への正式報告いまだにされず

 実施要項では、医療事故によって患者が死亡したり、重大または不可逆的な傷害を与えたりした場合(可能性がある場合も含む)は、医療課が赤穂市に規定の様式で報告する取り決めとなっている。

 病院は昨年9月の決算特別委員会で荒木友貴議員の「市長への報告はどうなっているのか」との質問に、「医療安全対策実施要項の規定により、レベルによって報告すると定めている。アクシデント(医療事故)はレベル4で市長に速やかに報告すると定めており、報告は行っている」と答弁した。

 ところが、今回のレベル4の症例について病院が牟礼正稔市長へ報告したのは事故から4か月以上が経過した5月28日で、しかも文書ではなく口頭だった。さらに、規定の書式による報告書は赤穂民報が確認を求めた12月27日時点でも市に提出されていないことが取材でわかった。

 事故から4か月以上も経過してからの口頭報告、さらには正式な報告書を提出していないにもかかわらず、「速やか」と議会に答弁した病院の姿勢は「隠蔽体質」「虚偽」との批判を呼びそうだ。

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回答が二転三転ガバナンス混乱

 病院から市への報告をめぐっては、病院は12月23日の取材に、「2019年5月下旬に口頭で報告した。口頭なのではっきりした日付はわからない」(医療課)と回答。しかし、赤穂民報が「実施要項では規定の様式で報告する取り決めになっている」と指摘すると、同日午後になって「確認不足だった。規定の様式で文書で報告していた。報告書の日付は5月28日だった」と回答を一転した。

 しかし、赤穂市側に確かめたところ、「文書は受け取っていない」と明言。病院は再々確認した末に「規定の様式で報告書を作成していたが、市へは渡していなかったようだ」と不提出を認めた。

 回答が二転三転した理由について、同課は「市への報告は院長と事務局長が行い、医療課は同席していなかったのでわからなかった。報告書は院長と事務局長、医療安全推進室が保管しており、医療課は保管していなかった」と説明した。

 実施要項では、市への報告は医療課が行い、報告書を同課及び医療安全推進室で保管する取り決めになっている。なぜ、規定と異なる処置だったのか。同課は「理由はわからない。文書の管理が悪かったと言われれば、おわびするしかない」と謝罪を述べ、「今から市に報告書を提出する予定」と話した。

 患者の生命や健康に関わる重要な公文書の取り扱いとしては極めて粗雑。取材対応への混乱ぶりからはガバナンスの不安定さを露呈した。被害者の家族は「杜撰という言葉しか思い浮かばない」と言葉を失った。

 なお、裁判で赤穂市と男性医師は、いずれも訴えの棄却を求めている。

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 赤穂民報では一連の医療事故問題の真相究明のため、関係者からの情報提供を募集します。情報源の秘密は厳守します。赤穂民報社TEL43・1886、ファクス46・2626、メールe-mail@ako-minpo.jp

(連続医療事故問題に揺れる赤穂市民病院)

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