赤穂民報

関係者証言から見える経営検討委の裏側(2月12日)

 「現在の経営を継続しても資金不足の解消は困難」「経営形態の変更も含めた抜本的な見直しを決断」といった牟礼正稔市長の意向を受けて設置された赤穂市民病院経営検討委員会。

 議事録から浮かび上がったのは、経営形態の移行は避けられないとの意見が大勢を占めていたにもかかわらず、最終的には「公立病院としての存続」を提言する報告書がまとめられた不可解さだった。関係者の証言からは検討委の「裏側」で物事が動いた様子が見えてくる。

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「補填続けば市も共倒れ」

 市民病院の経営形態をめぐっては、病院が「第2次改革プラン」を策定した2013年の時点で「現行の経営形態において努力をしても経営指標などの目標が達成されないなど、 地方独立行政法人化への移行が要請される場合においては、移行に向けた取り組みを進めていく」と明記されていた。

 それから約9年。この間、経営コンサルタントを導入して指標を設けて経営改善に取り組んだものの目標を達成できず、資金不足による一時借入金は膨らみ続けた。それでも、病院の内部検討会議は経営形態の移行ではなく現状維持の道を選択。20年度決算で資金不足比率が10%を超え、起債発行に総務省の許可が必要となった。今年度には市が一般会計から2億6000万円を追加補填。市幹部は「今後も補填しなければならない状況が続くようだと、市も共倒れになる」と危機感を口にする。

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市は指定管理者で腹決めていた

 赤穂市民病院経営検討委の設置にあたり牟礼正稔市長が示した文書には「このまま、現在の経営を継続したとしても、資金不足の解消は困難と判断」「経営形態の変更も含めた抜本的な見直しを行うことを決断した」とある。経営検討委の設置を発表した昨年8月の記者会見で具体的なプランを問われ、「私も考えがまったくない訳ではないが、ここで申し上げるのは差し控える」と含みのある発言をした。

 関係者によると、この時点では牟礼市長は「指定管理者制への移行へ腹を決めていた」といい、指定管理者を公募した場合、「市にとって願ってもない好条件」で手を挙げる事業者の目途もつけていたという。県も了承し、職員をオブザーバーとして送り込むことを決定。こうした市の意向は検討委の委員たちにも事前に伝えられた。

 ところが、実際に検討委が始まってみると思い描いた筋書き通りには進まず、市が検討を求めた「抜本的見直し」からは回を重ねるごとに後退。有識者たちから「経営形態の移行にお墨付き」をもらうはずだった検討委は結果的に「現状維持のお墨付き」を与える場となった。

 最終的にまとまった報告書には、「公立病院として存続することが望ましい」「市の財政支援について是非とも検討を」などと記載された。小児科や放射線療法、牟礼市長が再開を公約に掲げていた産婦人科は「経営改善策」の一環で「診療科見直し(廃止)」の対象に。牟礼市長は「報告書を最大限尊重する」と提言に従う姿勢を表した。

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医師引き揚げ宣告され白旗

 なぜ、市のお膳立て通りに事が進まなかったのか。複数の関係者が「医師を派遣している大学医局が『指定管理制になれば、継続して医師を派遣できるかどうか保障できない』と水面下で迫った」と証言する。これを事実上の「医師引き揚げ宣告」と受け止めた市は「そんなことになれば、市民病院の医療は崩壊する」と慌て、「白旗」を上げざるを得なかった。

 ある検討委メンバーは「病院はまさに『白い巨塔』。その高くて分厚い壁に赤穂市がはね返されたということ」と語り、「もしかしたら、検討委が始まる以前に勝負はついていたのかも知れない」と推測した。

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市も市民病院も「ゆでガエル」

 病院によると、2020年度時点の累積欠損金約70億円に対し資本は約82億円あり、「今なら欠損金を資本で相殺できる」という。仮に今後欠損金が増えて差し引きでマイナスになれば、市が追加負担することになる。また、試算では、経営検討委が提案した「最大で6億円程度の収支改善」が仮に50%しか達成できなければ、2024年に市の財政調整基金が底を尽き、その翌年には市のすべての基金が底を尽く。病院は「本館建設費の企業債償還が山を越す2027年度を乗り切りさえすれば…」と見通すが、ピークの手前で市財政が力尽きる恐れもある。

 それでも報告書を受け取った牟礼市長は「市の財政が許す限り手厚い支援を検討していく」「市民生活に影響がない程度まで支援する」と踏み込んだ発言をしている。

 検討委メンバーの一人は、ゆっくりとした環境変化に対応できずに茹で上がってしまう「ゆでガエル」の例え話に市民病院と赤穂市をなぞらえ、「とっくに危険ラインを超えているのに、まだ危機から脱しようとしない。結局は市民の負担が増えるだけにならないか心配」と行く末を案じた。

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「外圧」や「私心」排除し再検討を

 報告書を読み返したが、検討委が出した結論は『赤穂市の医療を守る』ものというより、『公立病院であることを守る』ものとしか見えない。

 もし、関係者たちが証言するように議論の方向がゆがめられたのだとしたら大きな問題だし、そもそも「指定管理者ありき」で話を進めようとした市の姿勢も問われる。外圧や私心のないフラットな場で、もう一度検討をやり直すべきではないだろうか。

(「公立病院での存続」を提言した赤穂市民病院経営検討委員会の資料と議事録)

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