赤穂民報

【社説】嘘や隠し事あるままで信頼回復はありえない(7月2日)

 赤穂市民病院が正式に医療事故8件を認めた記者会見を終えて新たに生じた疑問や問題点を列挙する。

 (1)75歳女性患者の頸髄をドリルで損傷した2019年10月の医療事故は、外部検証の専門医が「損傷の原因は稚拙で荒いドリル操作につきる」「基本的な確認作業ができていない」などと指摘したにもかかわらず、病院は「間違った手順でオペを行ったわけではない。過誤と言うほどのものではない」と過失を否定した。

 その意見をまとめたとされる「検証会議」には脳神経外科の専門知識を持つ者は一人もいなかったという。どのような議論を経て専門医の外部検証をくつがえす結論に至ったのか。極めて重大な疑義がある。

 (2)同事故をめぐっては、執刀したのが男性医師ではなく科長だったとする検証結果報告書が存在し、科長は「虚偽の公式文書を提出した」としている。病院によると、見解を統一するよう同科に何度も督促したが、いまだに提出されていないという。

 これが事実なら、同事故の執刀医を確定できていないまま検証を終えたことになる。このような問題を悪びれることなく言ってのける病院の感覚は理解できない。

 (3)病院の説明では、「公式的な会議は検証会議まで開かれなかった」とされる。検証会議があったのは2021年3月から6月にかけてなのだが、医療過誤被害者家族によると、2020年6月2日に藤井隆院長(当時)から医療過誤を認めて謝罪があったという。

 これらが事実とすれば、藤井氏は公式な会議を開かずに医療過誤を判断して患者側に謝罪したことになるのだが、病院はこの点についても患者と家族、市民に説明すべきだ。

 (4)病院の話では、今年2月24日と3月11日に開いた院内事故調査委員会で「正式に」医療事故を決定したのだという。だとすれば、3月25日の新旧院長記者会見を説明の場とできたはずなのに、なぜそうしなかったのか。

 (5)藤井前院長は3月25日の会見で、自身の責任の取り方について「市の判断に委ねる」と答えていた。しかし、市が病院事務局を通じて確認したところ、「退職金を返還するとか、そういう意思はない」(牟礼正稔市長)ことがわかったという。

 関係者によれば、もし自分が処分された場合は法的手段に訴えることも辞さないと反抗したという。「市の判断に委ねる」との発言は真っ赤な嘘だったと言え、最後の最後まで市民を裏切った。

 (6)男性医師の副業違反疑惑について病院は、昨年12月に「当該情報について承知していない」と赤穂民報に回答したことについて、「『承知していない』という言葉が適当だったとは思わない。嘘と言われても仕方がないと考えている」と非を認めた。

 病院によると、藤井前院長は昨年1月の時点で疑惑を承知していたが、医師本人が副業を否定したとしてそれ以上調査しなかったという。病院は今からでも副業先の医療機関に事実確認し、結果を明らかにすべきだ。

 (7)今年2月と3月の事故調で医療事故を正式決定したという病院の説明に基づけば、3月11日以降にそれぞれの患者に医療事故についての正式な説明が必要となるはずだ。病院は「病院としては説明したものと認識している。もし、不十分であれば、改めて説明するし、不十分と言われる批判は甘んじて受けるつもり」と述べたが、事故調以降に一度でも連絡したのだろうか。

 (8)患者対応の面では、裁判所に医療事故報告書などを資料提出することや今回の記者会見を開くことを伝えていなかったこともわかった。さらに、係争中の医療過誤訴訟について和解を申し出る意向を示したのだが、これも患者側に事前に伝えていなかった。

 患者家族は、病院が会見の場で和解の意向を公表したと報道で知り、「和解の申し出どころか、会見があることすら連絡がなく、大変残念に感じた」と心境を話した。本当に患者と家族に対して申し訳ない思いがあるのなら、まず最初に患者と家族に報告や連絡があってしかるべきだ。

 信頼回復への再出発とするはずだった今回の記者会見だが、赤穂市民病院が深刻なコンプライアンス不全に陥っていることを強く印象付ける過誤レベル級の事故会見になってしまったように思えてならない。

 病院はことあるごとに「信頼回復に努める」と口にするが、まずは患者や市民への嘘や隠し事をなくして思考と行動を改めなければ、信頼回復へのスタートラインにも立てないことを、いいかげん理解しなければならない。

()

カテゴリ・検索
トップページ/社会/政治/文化・歴史/スポーツ/イベント/子供/ボランティア/街ネタ/事件事故/商業・経済/お知らせ

読者の声
社説
コラム「陣太鼓」
絵本の世界で旅しよう
かしこい子育て
ロバの耳〜言わずにはおられない
赤穂民報川柳
私のこだわり

取材依頼・情報提供
会社概要
個人情報保護方針

赤穂民報社
analyzer