赤穂民報

《市民病院医療事故多発》議事録に個別検証の記載なし(3月18日)

 赤穂市民病院の脳神経外科手術で2019年9月からおよそ半年の間に8例発生した医療事故をめぐって同病院が開いた「検証会議」の議事録に、事例ごとの検証結果が記載されていないことがわかった。

 議事録の内容の大半は一連の医療事故に関係したとされる男性医師(20年3月に手術禁止を言い渡され、21年8月に依願退職)に対する批判と手術再開を認めるかどうかの検討で占められており、「医療事故に関する原因究明や過失の有無についての方針を決定する」ために検証会議を開いた、とする病院の主張とはほど遠い。

 検証会議は、8例目の医療事故から1年以上経過した2021年3月から6月にかけて計3回行われた。病院によると、当時院長だった藤井隆氏をはじめ副院長や看護部長、事務局長、医療課長、医療安全管理者など10人で開いたという。

 赤穂民報が入手した議事録(A4判5枚)によると、第1回(会議時間40分)は「検証事例報告」として「今までの経緯につき説明」があった後、男性医師への対応方針を協議。

 「自分で手術できているというが、実際は未熟な状態である」「手術というよりカテーテルをしたいと思っているようだ」「人間的にあり得ない程、問題が多すぎる」「病院として技術が未熟な事に関して、手術を止めているのは、法的に問題ないと考える。手術をさせた方が問題になる」などと男性医師に対する辛辣な批判が列記されている。その上で男性医師による手術を再開してもよいかどうか多数決をとり、「開始はできない」が多数となっている。

 「事例検証」が行われたのは第2回(同50分)。外部専門医に検証を依頼した3例について「3例とも手術操作が稚拙であると評価され、手術技術の不足が指摘されている。医療過誤事例に関しても過誤と判断した根拠ともなっている」との記載があるが、一つ一つの事例について原因を究明した様子や過失の有無を判断した根拠の記載は見られない。

 また、脳神経外科が合議して作成した医療事故報告書とは異なる内容の文書が診療科長個人から提出されたのを受け、「科として提出するように指示しているのに、二つの報告書の提出となっていることに、そもそも問題がある。どちらも信用できなくなる」と報告書の信憑性を疑う声や、「手術手技に関して実際執刀しているのは誰かわかるのか?」「観血的手術についてはビデオ撮影があり、映像を確認すれば判断できるだろう」といったやり取りも。そして、手術再開を認めるかどうか再び多数決をとり、またも「開始はできない」が多数となっている。

 第3回(同45分)は男性医師の勤務状況や同医師への今後の対応を協議した記録しかなく、事例を検証した様子はうかがえない。

 男性医師が手術の再開を強く希望していることに触れ、「再開の要件((1)周囲の医療スタッフと良好なコミュニケーションを図る(2)技術向上の修練を怠らない(3)4階の脳外科部屋に閉じこもらず、業務をおこなう)は守られていない」としている。また、「他病院で許可のない勤務をしていないかについては、病院より確認をおこなう」との記載があり、遅くともこの時には男性医師の副業疑惑を上層部が把握していたことを示している。

 * * *
「パワハラ訴訟」に備えた対策か

 医療事故調査は本来、医療の安全の確保を目的に「速やかにその原因を明らかにするため」に行う。「責任追及」ではなく、再発防止に向けた「学習」を目指して行うべきとされ、医療事故の原因を個人の医療従事者に帰するのではなく、医療事故が発生した構造的な原因に着目した調査が求められる。他の医療機関が作成した医療事故調査報告書を複数見たが、医療事故が起きた経緯を場合によっては分刻みで振り返り、真摯かつ丹念に問題点を洗い出した上で再発防止策を提言している。

 しかし、赤穂市民病院が行った検証会議は議事録を読む限り、医療事故の原因を男性医師個人の医療技術の未熟さや人格に帰して済ませている。何の技術が、どの程度未熟だったために事故が起きたのか具体的に考察した形跡がないどころか、医療事故発生時に誰が執刀していたのかすら、きちんと特定しないまま「事例検証」に入っており、およそ医療事故調査の体をなしていない。「医療安全管理委員会や医療事故調査委員会が適切に開催されておらず、議事録などの必要記録も適切ではない」として同病院の専門医訓練施設認定を停止した日本脳神経外科学会の判断は至極当然と言える。

 それにしても、医療事故から1年以上も経過したタイミングに、このような不十分な検証会議を開いた目的は一体何だったのか。事情を知る関係者は次のように証言する。

 「医療事故を起こした男性医師は手術禁止に不服で、手術再開を認めるよう弁護士を通じて病院に要求していました。しかし1年経っても解除されないことに業を煮やし、『藤井院長をパワハラで訴える』と言い始めたのです。検証会議が始まったのは、ちょうどその時期に当たります」

 この証言が事実だとすれば、病院が検証会議を開いた目的は、医療事故の原因究明や再発防止策を話し合うためというよりも、男性医師から訴えられた場合に備えて手術禁止の正当性を確認しておく訴訟対策だった可能性が浮かび上がる。

 検証会議をめぐっては、昨年3月の定例会で牟礼正稔市長が「院内事故調査委員会に準じた検証会議を開催した」と答弁。医療過誤をめぐる民事訴訟で原告(被害患者側)が「真相究明に不可欠な資料」として議事録の提出を求めているが、病院は「証拠として取り調べる必要性はない」「提出により公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがある」などとして拒否している。

 議事録を見た被害患者の家族は「唖然としました。どの部分が院内事故調査委員会に準じた検証会議なのか理解に苦しみます。なぜ、『人間的にあり得ない程、問題が多すぎる』というような医師に手術をさせ続けたのか。もっと早い段階で正式な事故調査委員会を開催して再発防止策が講じられていたら8件もの医療事故が発生することはなく、母の医療過誤は確実に防止できたはずです。そう考えると強い憤りを感じざるを得ません」と話している。

(多発した医療事故に関して赤穂市民病院が行った「検証会議」の議事録)

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