赤穂民報

《市民病院医療事故多発》検証委報告書でも真相解明至らず(4月8日)

 赤穂市民病院の脳神経外科で多発した医療事故を受けて設置された第三者委員会「赤穂市民病院ガバナンス検証委員会」の報告書が公表された。

 一連の医療事故に執刀医として関与した医師による手術への参加を臨床工学技士がボイコットした件について、しっかり調査せずに報告書をまとめており、真相解明には不十分な内容となっている。

 報告書では、一連の医療事故発生後の病院の対応について、医療安全マニュアルに定める報告や調査が行われなかったことや、内容の異なる2種類の検証報告書が提出されていることなどを問題視。「指揮命令系統が適正に機能しているとはいえない組織体制となっている」「病院全体として、実際に医療事故が発生した場合、適正に対応すべきであるとの認識が欠如していた」などと批判的に指摘した。

 また、医師の技量を事前に確認するステップがなかったこと、医療事故件数を統計的に把握できていないことも問題とし、「医療安全への取り組みが十分に機能していなかったことが、大きな課題として浮き彫りになった」と総括。今後の改善点として、医療安全マニュアルの改訂と遵守、病院全体の医療安全教育の実施、リーダー育成などを提言し、「人の生命を扱っているという当たり前のことを十分意識することが大切」などと医療従事者に欠かせない基本的な意識の浸透を求めている。

 一方、一連の医療事故に関わった医師の採用から半年ほど経過した2019年12月頃、「(カテーテル操作が)乱暴で稚拙で、患者にとって危険」との理由で同医師が行う手術への参加を臨床工学技士たちが拒否した件については報告書に記載がない。脳神経外科診療科長や医療安全管理者など4人に実施した事情聴取でもボイコットに関する事実確認をした形跡はなく、臨床工学部の職員はヒアリングの対象にすら含まれていない。

 同医師はボイコットの申し入れがあった後も手術を続け、20年2月末までに、さらに3件の医療事故が発生。その中にはカテーテルによる血栓回収の手術中に出血し、患者が昏睡状態に陥ったまま5日後に死亡した症例も含まれる。申し入れがあったにもかかわらずなぜその後の医療事故を防げなかったのか。検証委による解明が期待されたが、真相は明らかにならなかった。

 ボイコットの件を検証しなかった理由について検証委の有田伸弘委員長(関西福祉大学教授)は、赤穂民報の取材質問に、「市民病院で調査した結果、そのような事実は認識していないとの結論だったため、検証は行わなかった」と回答。委員会独自には調査しなかったと認めた。

 検証委は、医療安全や組織ガバナンスに知見があるとされる医師や弁護士など4人をメンバーに昨年6月設置。「病院組織として、このような医療事故等を未然に防ぐことができなかったのか等、ガバナンス面の問題点を検証し、改善策を提言すること」と目的を位置付け、▽医療安全推進体制▽医療安全対策実施要項▽信頼回復―をテーマに今年3月まで計6回、いずれも非公開で開かれた。

 報告書は3月31日に病院ホームページに公表。病院は「報告書に関して、記者会見を開催する予定はない」とし、報告書を受けた今後の取り組みついて「まずは、すぐに始められることから取り組んでいきたい。具体的には、院内の共通理解を徹底するため、先進医療機関の医療安全マニュアル等の情報を収集し、用語の定義を明確にしてマニュアルを改訂し、制度が浸透するための取り組みを行う」と書面で回答した。

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個々の事故や過失判断には言及せず

 赤穂市民病院ガバナンス検証委員会の報告書で、赤穂市民病院が医療事故と認めている8件の他に3つの症例で生じた患者への有害事象の概要が明らかになった。

 報告書によると、(1)腫瘍摘出率が20%以下だったため、別の脳外科医(診療科長)が翌月に再手術(2019年7月)(2)水頭症手術実施から10か月後、発熱カテーテル抜去(2020年1月)(3)水頭症手術に伴う肺挫傷の出現(2020年3月)―の3症例。

 これらの症例に関して、病院は昨年3月の記者会見で一旦は「医療事故」と説明しながらも、同年6月の記者会見で「3件とも事故には当たらない」(高尾雄二郎副院長兼医療安全推進室長)と撤回。「(医療事故の定義とする)『事故により濃厚な処置や治療の必要性』は生じなかった」として、医療事故より軽い「ヒヤリハット」に区分けした。

 検証委は、「個々の医療事故・医療過誤の判断は市民病院がその責任において行うものであり、委員会は判断を行わない」とし、各症例の過失の有無や医療事故に該当するか否かについて言及を避けた。

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