赤穂民報
ワクチンコールセンター 受託企業が過大請求か(6月10日)
赤穂市の新型コロナワクチンコールセンターを運営している旅行代理店「東武トップツアーズ姫路支店」が、コールセンターで勤務する派遣社員の実働時間を「1日8時間」として市に人件費を請求したのに対し、実際の勤務時間を30分短縮し、派遣社員には1日7・5時間分の報酬しか与えていなかったことがわかった。
また、「課長級」を配置するとしていたコールセンターの管理者を課長級ではない社員がほぼ担っていたにも関わらず課長級の日当を請求していたことも判明。さらに、同じ部屋に別の自治体のコールセンターを併設して管理者を掛け持ちさせていたなどとする疑惑もあり、市が同社に事実確認を求める事態となっている。
赤穂市のコールセンターは2021年3月に姫路市白銀町の大手前通り沿いにあるオフィスビルの一室に開設。開設準備段階から現在に至るまで東武が随意契約で事業を受注している。今年3月末までの委託料として赤穂市が支払った金額は人件費、コールセンター事務所賃料、業務管理費などで合計約2億4000万円。全額国費でまかなわれる。
人件費などの積算根拠として東武が市に提出した「概算見積」によると、1か月間に寄せられる予約や問い合わせの電話件数を「5129件」、1通話に要する時間を「10分」と想定した上で、対応には実働8時間のスタッフが「最低4名必要」と算出。4人のうち1人は社員、残り3人は派遣社員、さらに管理者兼情報セキュリティ責任者として課長級の社員を1人配置すると記載し、人件費の単価(日当)を「課長級4万8700円、社員3万2700円、派遣社員2万7900円」と設定している。
赤穂民報が入手した資料によると、当初の勤務時間は実働8時間(午前8時45分〜午後5時45分、休憩1時間)だったが、2021年12月以降は「午前8時45分〜午後5時15分(休憩1時間)」の実働7時間30分に短縮。しかし、その後も当初契約の単価のまま人件費を請求し、赤穂市から支払いを受けていた。
また、当時コールセンターに勤務していた複数の派遣社員は、「管理者に課長級の社員が配置されたことはほとんどなかった」と証言。「管理者」の立場で勤務していた男性のことを東武の社員は「彼も派遣社員」と話していたという。この証言が事実なら、課長級と派遣社員の日当の差額分を過大に赤穂市に支払わせたことになる。また、管理者兼情報セキュリティ責任者の役割を果たすのに適した人材だったのかどうかも疑問が残る。
さらに、「赤穂市の管理者が、同室の播磨町のコールセンターの管理者を掛け持ちしていた」との証言も。それぞれ別の管理者を配置していたように見せかけるため、コールセンターにはいなかった姫路支店の社員の名前を報告書に記載していたという。
東武姫路支店は赤穂民報の取材に、「2021年12月以降、勤務時間が実働7時間30分だったことは事実だが、赤穂市とは日当契約しており、弊社としては、午前9時から午後5時のコールセンター運用業務に必要な体制を確保するという認識だった」と請求の正当性を主張。その他の指摘については「事実と異なる」として疑惑を否定した一方、「もし、赤穂市から返還を求められた場合は社内で協議する」と返金の可能性を示唆した。
一連の問題について赤穂市は「今年4月に市に通報があり、事実確認を行っている。国と県からも報告を求められている」(新型コロナウイルスワクチン接種対策室)と話している。
各関係者との取材やり取りは次のとおり。
* * *
▼東武トップツアーズ姫路支店
――実働時間を短縮した後も同額の人件費を請求している。
「赤穂市とは日当契約しており、弊社としては、午前9時から午後5時のコールセンター運用業務に必要な体制を確保するという認識だった」
――「課長級のスタッフがコールセンターに入ったことは、ほとんどなかった」との証言がある。
「課長級というのは、弊社の役職のことではなく、ワクチン接種事業運用業務における役職の位置付け」
――管理者を派遣社員が務めていたとの証言もある。
「弊社に派遣部門があり、そこから来た者を配置していた」
――赤穂市と播磨町のコールセンターで同じスタッフが管理者を掛け持ちしていた、との指摘がある。
「事実と異なる。両自治体それぞれに管理者をたてて運営していた。コールセンター以外に弊社事務所内の『新型コロナウイルスワクチン事務局』で管理者が勤務することもあったので、コールセンターの管理者が1名になることはあったが、管理者同士連携を取り対応はしていた」
――コールセンターの事務所賃料を赤穂市と播磨町に二重に請求していたのでは。
「事実と異なる。コールセンターと事務局の賃料を按分して請求していた」
――播磨町と同室でコールセンターを運営することや、コールセンターと別に支店内に事務局を置くことについて、赤穂市の承諾を得ていたか。
「今年4月の視察で確認していただいた」
――赤穂市に返金する考えはないか。
「もし、赤穂市から返還を求められた場合は社内で協議する」
* * *
▼コールセンターで勤務していた派遣社員Aさん
――勤務時間が8時間から7時間30分に短縮になった。
「コールセンターは午後5時で留守番電話に切り替わると、ほとんど業務はなく、東武のHさんから『これからは5時15分でタイムカードを打ってもらう』と言われた。8時間勤務という約束だったのに、勤務時間が減って給料が減るので、私たちとしては不満があったが、Hさんから「これは税金ですから(必要のない支出はできない)」と説明されて渋々納得した」
――実際は、東武は赤穂市から8時間勤務だったときと同じ人件費を受け取っていた。
「だまされていたことがわかって腹が立つ。東武は赤穂市に返金した上で、事実を公表し、国民に謝るべき」
* * *
▼派遣社員Bさん
――管理者は配置されていたのか。
「ほとんどの日で赤穂市の管理者としてTさんという男性が入っていて、同じ部屋にあった播磨町のコールセンターの管理者を掛け持ちしていた」
――東武は「両自治体それぞれに管理者をたてて運営していた」と主張している。赤穂市も、「東武から提出された報告書には播磨町とは別の人物が管理者として記載されている」と説明している。
「Hさんが別の社員に報告書を作らせていた。『赤穂市と播磨町(の管理者名)が重複しているとまずいからチェックしておくように』と指示していた。赤穂市は今年4月まで一度もコールセンターを確認に来なかったので、見抜けなかったのだと思う」
――派遣社員が受け取っていた時給はいくらだったのか。
「私たちは時給1300円(8時間勤務で日当1万400円、7・5時間勤務で9750円)です」
* * *
▼赤穂市新型コロナウイルスワクチン接種対策室
――管理者に「課長級」ではない者が配置されていた。
「管理者が課長級でなければならないとは考えていない。役割に応じた日当が支払われているのであれば問題はない」
――業務委託仕様書には、コールセンター業務の設置場所について「赤穂市の承諾を得た場所」との取り決めがある。コールセンターとは別の場所に「新型コロナウイルスワクチン事務局」を設置することを承諾していたか。
「今年4月に東武に確認するまで承知していなかった」
――個人情報を取り扱う業務だが、市が承諾した場所以外で業務することに問題はないのか。
「今回の場合は委託先の支店を事務局としていたということなので問題ない」
――「コールセンター事務所賃料」に「事務局」として東武姫路支店分が含まれているとの認識はあったか。
「今年4月に確認するまで東武から説明や報告はなかった。その点は納得しかねる」
(赤穂市ワクチンコールセンターが入居している姫路市内のオフィスビル)
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