赤穂民報

京アニ放火殺人事件の判決受け遺族が心境〈後編〉「心の奥に氷の塊がずっと」(2月3日)

 36人が死亡し、32人が重軽傷を負った2019年7月の京都アニメーション放火殺人事件。青葉真司被告(45)に死刑を言い渡した先月25日の京都地裁判決を受け、事件に巻き込まれて亡くなったアニメ映画監督で同社役員の武本康弘さん(当時47歳)の父・保夫さん(80)と母・千惠子さん(75)が「どんな判決が出ても、息子は帰ってこない」とやるせない気持ちを語った。2回に分けて伝える後編。

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どんな判決でも事実は消せない

 下された判決は死刑。保夫さんは「判決は予想どおりだった。精神鑑定でも『責任能力あり』とされていたので」と淡々と受け止めた。公判が終わると、すぐに帰路について自宅に戻り、康弘さんの遺影に判決を報告した。

 保夫さん「康弘君に『死刑の判決が出たよ』という報告をしたけどね。なんか、仇をとった、という気持ちにはならんかったね…。どういう判決が出てもね、むなしさだけが残る。(息子が)亡くなったという事実はどうしても変えられない。どういう判決になっても帰ってこん。青葉がどういう形になろうと。むなしさは消せない」

 千惠子さん「犯人が憎くて憎くてというよりも、息子が、あの子がいなくなった、という事実だけが悲しい。それだけ」

 被告側は地裁判決の翌日に控訴した。

 千惠子さん「これで終わってくれたらいいのに、と思ってたけど…。また、ずっと引きずるからね」

 保夫さん「被害者の遺族の中には、今回の判決を聞けずに亡くなった方がお二人います。控訴となると、また時間がかかる。僕らもね、今でさえ足腰が弱ってきて、いつまで元気でおられるかどうかわからない。控訴は残念。できれば控訴を取り下げてほしい。判決を受け入れてほしい」

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心の奥に氷の塊

 康弘さんは幼いころから絵を描くのが好きで、両親が営む中華料理店の2階の部屋でイラストや漫画を描いていたという。赤穂高校では文芸部で部長を務め、アニメの専門学校で学んで20歳で京アニに入社した。

 30代で監督も任されるようになり、「らき☆すた」「涼宮ハルヒの憂鬱」「氷菓」など人気作を手掛けた。両親に仕事の話をすることはあまりなかったが、新しい作品が完成するたびに招待券を2枚送ってきてくれた。

 康弘さんの遺影がある仏壇は、保夫さんが康弘さんのことを思いながら自ら板を加工したもの。「人にやさしく 心豊かに おしまれて 死す」と手彫りで文字を刻んだ。かつて保夫さんが新聞か雑誌で目にし、「こういう人生を送ってほしい」と思って成人した我が子らに贈った言葉。康弘さんは額に入れて自宅玄関に飾り、大事にしてくれていたという。

 保夫さん「親の自分が言うのもなんですけどね…。ほんとにやさしい、ええ子やったんです」「四六時中というわけではないけれど、忘れられるものではない。楽しいことがあっても、心の底から笑えない。心の奥に氷の塊が溶けずに残り続けているような。それがずっと続いてる」

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