人生疾走した青年の遺作写真詩集
2012年09月22日
写真詩集「KNOW WHERE」に収録されている作品の一つ「自分の空を探しに行こう」
本人が旅先で撮った膨大な量の写真と、つづった詩文を両親と仲間が共同編集。生きることの意味を問い続けながら人生を疾走した若者の思いがほとばしる一冊になった。
昭和57年生まれの塩飽さんは城西小から岡山白陵中高を経て慶応大理工学部へ進学。あこがれだった海外への一人旅を始めた。社会人になってからは製薬会社で創薬研究に没頭するかたわら、登山にも魅入られた。26歳でアフリカ最高峰のキリマンジャロへ登頂。翌年にはヒマラヤの6000メートル峰を極めた。旅行先で撮影した写真の個展を東京と姫路で計3回開いた。
好奇心と行動力にあふれた彼をアクシデントが襲ったのは平成22年7月。マッターホルン登攀へ向けた練習で訪れていた槍ヶ岳北鎌尾根で遭難した。警察や関係者、友人らが懸命に捜索したが生還の願いは届かなかった。
一人暮らしだった部屋を両親が片付けていたとき、本棚から手帳やノートが18冊見つかった。ボールペンで書かれた旅日記で、随所に心の内をつづった詩が書き留められていた。その数300篇以上。旅先の孤独の中で真摯に自分を見つめる息子の姿が胸に迫った。父・康正さん(63)は全ページをスキャンし、母の隆子さん(56)がすべての詩文をワープロで活字にした。
さらに、雅彦さんのパソコンには各国で撮影した写真のデータ約1万8000点が整然とファイル分けして保存されていた。「息子が駆け抜けた27年間を『過去』ではなく、『未来』へ動かしてやりたい」。雅彦さんが将来の夢の一つに「出版」を挙げていたことも後押しになった。
両親は、雅彦さんと特に親しかった友人4人に編集への協力を依頼。全員が「マサのために」と引き受けた。複数の人が同時に会話できるネット会議システムで遠距離を克服。今年2月から半年間にわたって週1回の打ち合わせを重ね、収録する詩文と写真を厳選した。レイアウトはもちろん、写真の微妙な色合いにもとことんこだわった。
本のタイトルは「KNOW WHERE」(A5判オールカラー、114ページ)。アフリカの大地を包むタンザニアの夕日、まっすぐな瞳をレンズに向けるネパールの少女、最後に登った山頂でシャッターを切ったヒマラヤ山脈など写真57点と詩49篇。ページをめくるごとに作者の感動や希望、葛藤が読み手の心を貫く。
発刊の日は雅彦さんの誕生日を選んだ。康正さんと隆子さんは「息子が紡いだ“言の葉”が読んだ人の心の中で共鳴し、何らかのメッセージを届けることができれば」と願っている。
文芸社から2000円+税で1000部発行。「赤穂書房」(TEL42・2516)「未来屋書店」(TEL43・7174)など主な書店で予約を受け付けている。
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掲載紙面(PDF):
2012年9月22日(2006号) 1面 (9,773,407byte)
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