2015年06月20日
石炭発電への転換計画について計画を延期せざるを得ない情勢となっている関西電力赤穂発電所
関西電力が赤穂発電所で計画している重油・原油から石炭への燃料転換について、二酸化炭素(CO2)排出量増加を懸念する環境省は環境影響評価(環境アセスメント)を実施するよう同社に求める方針を固めた。
兵庫県も「CO2対策は確実に行う必要がある」(水エネルギー課)とアセスの必要性を指摘。同社は、当初の計画で今年度中を予定していた着工時期について、「見通しは立っていない」(同発電所)と延期せざるを得ない情勢となった。
計画によれば、1号機と2号機(いずれも定格出力60万キロワット)の発電燃料に石炭を使用できるようにボイラ、燃料設備などを改造。平成32年度中の切り替えを目指している。定格出力は現状を維持する。石炭灰はセメント原料などに全量リサイクルするという。
燃料を石油から石炭に切り替えた場合、発電コストは60〜72%削減(経産省作業部会算定)できる一方、CO2直接排出量は24%増える(電力中央研究所推計)とされる。硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)については、同社は「排煙脱硫装置、電気集塵機を最新の性能を持つ機器に更新することで現行(石油発電)よりも低減できる」と説明している。
同社は今年3月に経産大臣に提出した「供給計画」で赤穂発電所の燃料転換計画を発表した。設備の一部改造による燃料転換は、法律に基づくアセスの対象外のため、「自主的なアセスメントを実施した上で今年度中に着工」とのスケジュールを立てていた。
しかし、5月に開かれた環境省の環境影響評価制度小委員会(委員長=浅野直人・福岡大学法学部教授)で、赤穂発電所の燃料転換計画に対し、「ぜひ再度アセスをしていただきたい」「自主的なアセスを行うにしても、相当しっかりしたものでなければならない」といった意見があり、同省は「法改正も視野に入れた対応」の検討に入った。兵庫県も「本来なら法律に基づくアセスの対象になるべきもの」(水エネルギー課)との認識を持っている。
また、県は「石炭に転換する理由についての明確な説明がなければ、アセスには進めない。まずは関係市町(赤穂市)へしっかり説明して理解を得るべきだろう」(環境影響評価室)と説明責任を果たすように注文をつけている。
赤穂発電所の燃料を石炭に転換する理由について同社は、「燃料調達の安定化とコスト削減」と説明している。しかし、赤穂と同じく重油・原油を燃料としている相生発電所については、CO2排出量が石油よりも2割少ない天然ガス(LNG)を併用する設備への改造を計画。「相生は石炭発電に必要な設備を置くスペースがない。また、相生と赤穂の両方をLNG発電にするだけの供給量を確保できない」としている。
赤穂市も同社からこうした説明を受けており、「赤穂と同規模の石炭火力発電所のデータなど、より詳しい情報を事業者に求めているところ」という。
電力事業をめぐっては今月12日、山口県宇部市に計画されている大型石炭火力発電所の建設について、環境省がCO2削減の観点から「国の目標と整合性を持っていると判断できず、現段階において、是認しがたい」とする意見書を提出。「電力業界全体で二酸化炭素排出削減に取り組む枠組が示されなければ、他の石炭発電についても同じ結論になることはあり得る」と話している。
関西電力赤穂発電所は赤穂民報の取材に対し、「県、市の指導を仰ぎながら、自主アセスの実施に向けて調整を図りたい。現時点では、平成32年度中の切り替えを目指すことに変わりはない」と話しているが、国の動向によっては計画の見直しを根本から迫られる可能性もある。
また、17日には「発送電分離」を実施する改正電気事業法が国会で成立した。電力自由化へ向けた業界各社の競争が本格化する中、国と業界が、いつ、どのような枠組みを構築するかによって赤穂の計画も左右されそうだ。
◎環境影響評価(環境アセスメント)=ダムや空港、発電所などの開発事業が環境に及ぼす影響を事業者自らが調査・予測・評価し、その結果を公表して一 般の方々、地方公共団体などから意見を聴き、環境保全の観点からよりよい事業計画を作り上げるための手続き。
掲載紙面(PDF):
2015年6月20日(2140号)1面 (10,740,852byte)
コメント
※コメントは投稿内容を赤穂民報社において確認の上、表示します。投稿ルールを遵守できる方のみご投稿ください。