2016年03月26日
さっそく、為吉は、その岬の突端まで行って見た。
このあたりの岬は、山が海岸近くまでせり出してきていて、砂浜があまりない。海のそばに山があるという場所である。為吉は、崖のような急な斜面を、恐る恐る下りて行って、ようやく海岸にたどり着いた。しかも、海岸にある石は、ごつごつした角のある石ばかりで、歩くのにも苦労した。
そんな石の上を歩いて、潮吹き穴を探して回った。そして、明らかに崖崩れでできた大きな石と砂の山を見つけることが出来た。
そこには、崩れ落ちた岩が山のようになっていた。その下に、たしかに洞窟らしきものがある。しかし、完全に崩れ落ちた岩でふさがれていた。そして、岬の岸壁の途中に穴が開いていることが分かった。これが潮吹き穴に違いないと為吉は、じっと、洞窟に入り口と潮吹き穴を眺めながら、考えた。幅が一間(180センチ)、高さは半間(90センチ)くらいしかない小さな洞窟の入り口である。
あの穴は、本当に潮吹き穴なんだろうか? この岩を取り除いたら、ほんとうに塩辛い海が戻ってくるのだろうか。この岩を取り除くのには、何年もかかるけれど、一人でできるだろうか。考えれば考えるほど、わからなくなってしまう。
じっと、崩れ落ちた岩を見つめ、その下にあるらしい洞窟を考えたとき、見えない力が「おやりなさい。おやりなさい。おまえなら出来る」と、為吉の背中を押しているような気がした。そして、洞窟が、苦しそうに助けてほしいと叫んでいるように見えてきた。
為吉は「よし!」と大きな声を出して立ち上がった。為吉は、やってみるしかない。ダメだったら、あきらめるしかない。そう考えて、思い切り大きな声を出して決心したのだ。(作・切り絵 村杉創夢)
[ 赤穂の昔話 ]
掲載紙面(PDF):
2016年3月26日(2179号)4面 (10,784,422byte)
コメント
※コメントは投稿内容を赤穂民報社において確認の上、表示します。投稿ルールを遵守できる方のみご投稿ください。