2016年05月21日
一年が過ぎ、二年目と頑張った。何かに取りつかれたように、夢中で岩を運び出していた。たったひとりでも、毎日、少しずつだが石を運び出していると、やがて洞窟の入り口が見えてきた。
しかし、崩れ落ちた岩は、ずっと奥の方まで、続いていた。それを見ても、為吉は、あきらめることはなかった。あと、ひと踏ん張りすればいいのだ。為吉は、もうじき、石運びが終わると思って、さらに石運びに精を出していった。そして、もうすぐ三年が終わるという頃、とうとう洞窟の奥に到達した。
為吉は、洞窟の一番奥の壁に、白く光る大きな岩があるのを見つけた。為吉は、その岩を人差し指でこすって、その指をなめてみた。
「しょっぺー!」
為吉は、ペッ、ペッと唾を吐いた。ものすごいしょっぱさだった。為吉は、海のしょっぱさは、やはり、ここから来ているのに違いないと思い、洞窟の入り口に積んであった残りの岩を取り除いた。
その日から、大きな波が打ち寄せるたびに、海の水は、洞窟の奥まで入っていき、突き当りの白く光る岩に勢いよくぶつかり、跳ね返った。跳ね返った海水は、岩の壁をよじ登り、崖の途中にある穴から勢いよくプオーと海水を噴き出したのだった。
為吉は、毎日、海の水をなめてみた。少しずつ、しょっぱさが増していた。為吉が考えた通り、洞窟の白く光る岩にぶつかった水が、岩の塩を解かして、混ざっていくのだ。その水が塩の水となって、崖の穴から噴き出していたのだ。
毎日のように「潮吹き穴」から噴き出した塩水は、海に落ちていった。だから、少しずつだが、海の水のしょっぱさが強くなっていったのだ。(作・切り絵 村杉創夢)
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▽村杉創夢=30歳ごろから趣味の切り絵を始め、歳時記や風景を題材に通算40回の個展を開催。自宅に「村杉きりえギャラリー」を開設し、オリジナルの物語に切り絵を組み合わせた「創作むかしばなし」の制作にも取り組む。東京都町田市在住(赤穂市出身)、71歳。
[ 赤穂の昔話 ]
掲載紙面(PDF):
2016年5月21日(2185号)4面 (11,631,899byte)
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