2018年07月21日
中学校に養護教諭として勤務していた時期のことです。当時関わっていたA子さんは、小学生の時にいじめに遭い、以後不登校の状態が続いていました。
中学1年から、保健室隣の相談室に一日2時間だけ登校できるようになっていました。真面目に黙々と課題に取り組みますが、教員以外、誰にも会わずに帰ります。会話する時もうなずくか首を横に振るか、の意思表示だけで言葉はほとんど発しません。
思い立って、夏休みの自由課題として、ヘルシー朝食コンテストを考えつきました。生徒は誰でも参加できることとし、保健だよりで全校生徒に案内しました。A子さんにも「参加することも、しないことも自由」であることを伝え、保健だよりを渡しました。A子さんはうつむいたまま、黙って保健だよりを受け取りました。
果たして、A子さんはどうしたでしょうか? なんと、見た目も鮮やかなフルーツたっぷりのフレンチトーストにミルク、レシピまで丁寧に書いてあります。カラー写真付きでコンテストに応募してくれました。2学期の始業式に保健委員会主催でヘルシー朝食コンテストの表彰を行いました。応募者全員が入賞とし、A子さんを含む3名を優秀賞としました。その場にA子さんは出席しませんでしたが、生徒は大きな拍手を送ってくれました。A子さんの母親に連絡すると、「夏休み中、メニューを色々考えて、姉と一緒に楽しそうに作っていましたよ」とのことでした。
ヘレンケラーを教育したことで有名なサリバン女史はヘレンに最初に出会った時の様子を詳細に書いています。その中でとても興味深いのは、ヘレンの障害についてではなく、健康な体格と美しい口元、快活な体の動きに注目し、記述していることです。子どもの持つ成長の要素を瞬時に見出し、その後ヘレンの成長に信念を持って教育をしています。子どもの成長を信じることの大切さを教えてくれています。
子どもたちは様々な体験や出会いによって大きく成長するタイミングがあります。そんなタイミングがこの夏休みにあるかも知れません。(池永理恵子・教育学部保健教育学科長)
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次回は教育学部保健教育学科の吉岡哲准教授です。お楽しみに!
[ かしこい子育て ]
掲載紙面(PDF):
2018年7月21日(2286号)4面 (7,016,479byte)
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