2019年07月20日
昔、むかしのことです。大津へ一人の悪党が逃げこんできました。この悪党は、都でさんざん悪事をはたらいたため、追っ手におわれて逃げてきたのです。
都からは、検非違使庁の役人が大勢の部下を引き連れて、この悪党を捕まえにやってきました。大津の清水あたりに隠れていた悪党は、追っ手に見つかり、ついに捕まってしまいました。
ところが、捕まえた悪党をみて、都の役人の顔色がサーッと青ざめました。何と、幼いころに生き別れとなった弟に、よく似ていたのです。役人は、部下をさがらせて、悪党と二人っきりになり、身の上をたずねました。間違いありません。悪党は生き別れになった弟でした。
兄は弟にいいました。
「お前もいろいろと苦労したんだろうなあ。母上は、いなくなったお前のことを、ずっと心配しているよ。立派に成長したお前にいつかはきっと会えると信じて、都で待っているんだよ。お前が悪党になったことを知ったら、母上は……」
最後は、涙で声になりません。二人とも、うつむいたまま、泣き続けました。(つづく)=切り絵・村杉創夢
[ 赤穂の昔話 ]
掲載紙面(PDF):
2019年7月20日号(2333号)3面 (9,976,627byte)
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