2019年07月27日
「兄さん!」
突然、弟が叫びました。
「兄さん! 私の首をここで切ってくれ。母上に、こんな姿はみせたくない」
兄は弟の顔をじっとみつめました。兄は眼で「いいのか」と弟にたずねました。弟は黙ってうなずき、そしていいました。
「母上には何もいわないでください。私の首はここに埋めてください。都で『さらし首』にされると、母上にみつかるおそれがありますから」
弟は、くるりと後ろ向きになると、首を前につきだしました。
役人である兄は刀を抜き、そして弟にいいました。
「許せよ! 何もしてやれなんだ兄であったな……。今度生まれてあうときは、仲のよい兄弟になろうな……」
すると、今度は弟が兄にいいました。
「兄さんの手で処刑されることは本望です。私の首をここに埋めて、その上にお地蔵さんを建ててください。私はきっと、今までの罪つぐないのために、首から上の病を治すことを誓います」
「ドスッ」
兄は弟の首をていねいに埋葬して、都へ引き上げていきました。
数年後、老婆が大津の清水にやってきて、悪党の首が埋まった所にお地蔵さんを建てて、そのまま去っていきました。
このお地蔵さんをおがむと、首から上の病気は何でも治ると伝わっています。(赤穂市教育委員会刊『赤穂の昔話 第一集』・「首より上の病をなおす地蔵さん」より)=切り絵・村杉創夢
[ 赤穂の昔話 ]
掲載紙面(PDF):
2019年7月27日号(2334号)3面 (11,568,091byte)
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