2019年11月23日
村人はシーンと静まりました。組頭は下を向いたまま、しばらく口を閉じていました。しばらくして、また重苦しい声で、
「昔から、難工事には人柱をたてると、うまくいくと言われとるが……。これしか方法が……」
村人たちはだまったままです。皆、心の中では「それしか方法はない」と思ったのですが、犠牲になる者のことを考えると何も言えませんでした。長い沈黙が続きました。
突然、おさんの亭主が立ち上がり、
「その通りかもしれまへんなあ。なあみんな、今から裸になって褌を見せろや。褌につぎがあたっとる者が人柱になることにしたらどうや」村人は、おさんの亭主が何を言ったのか、しばらくの間わかりませんでした。組頭は、おさんの亭主の顔をじーっと見ました。
「誰かが犠牲にならなアカンのやなあ」
ため息をつきながら、組頭は裸になりました。それを見て、村人は次々と着ているものを脱ぎました。
「これで決まりやな。つぎのあたっとる褌をしとるのは、わしだけや」
おさんの亭主は村人を見回しながら言いました。おさんの亭主は、最初から自分の褌につぎがあたっていることを知っていたのです。(つづく)=切り絵・村杉創夢
[ 赤穂の昔話 ]
掲載紙面(PDF):
2019年11月23日号(2348号)4面 (10,883,156byte)
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