2019年11月30日
家に帰ったおさんの亭主は、いつものように帰りを待っていたおさんに向かって「おかあはもう寝たか。ちょっと、お前に話があるんやが……。黙って最後まで聞いてくれえよ」といい、自分が人柱に決まったいきさつを詳しく話しました。
「誰かが犠牲にならなあかんのや。村のためや、我慢してくれ。お前には苦労ばっかりかけたなあ。……わしの最後の頼みや……。おかあのこと、あんじょう頼んだで」
おさんは黙ってうなずきました。おさんの返事に安心したのか、亭主はニコッと笑い、寝間に入っていきました。
亭主が寝たのを見届けると、おさんは着替えてそっと家を出ました。そして、組頭の家に行きました。
「えろう遅うに来ましてすんまへん。話は主人から聞きました。決まったことに反対はしまへん。そやけど、一つだけ、お願いがおます」 「わてを人柱にしとくんなはれ。主人には年老いた母親がいます。おかあはんがかわいそうだす。わては身寄りもおまへんし……。それに、褌につぎをあてたのはわてだっさかいに」
おさんは必死に頼みました。おさんの話が終わると、組頭は重い口調で、
「お前の気持ちはようわかった。こないなことになって、すまんこっちゃなあ。亭主には、わしから言うとく。後のことは心配せんでもええど」
と言い、おさんの気持ちを聞き入れました。
おさんが人柱になったためか、水門の工事はまもなく完成しました。この新しく開拓された村が、塩屋の新田だということです。おさんは今も日吉神社にまつられています。
(赤穂市教育委員会刊『赤穂の昔話 第一集』・「おさんさん」より)=切り絵・村杉創夢
[ 赤穂の昔話 ]
掲載紙面(PDF):
2019年11月30日号(2349号)4面 (12,536,879byte)
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