2020年06月13日
江戸時代のお話です。岡山から鳥打峠を越えて一組の若い男女が赤穂へ逃げてきました。女は千代姫といい、岡山藩の家老の姫君で、男は家老の屋敷に奉公していた富造という下男でした。
二人は、お互いを好きになりましたが、厳しい身分制があり、結婚など許されるはずがありません。そこで、二人は手に手をとって岡山から逃げ出したのでした。二人は、塩田の干拓が始まって、たくさんの人々が移り住むようになっていた赤穂へ行こうと決心しました。
二人は、移住してきた人たちによってできた西浜の鳥撫村に着きました。富造は塩田開拓の人足として、千代姫は人足たちの食事の用意と後片付けをする下働きとして働きました。千代姫は今まで働いたことなどありませんでしたが、愛する富造のためと思い、一生懸命に働きました。
貧しいながらも幸せな毎日を送っていましたが、千代姫があまり食事をとらず、少しずつやせて弱っていることが気がかりでした。そこで、富造は休みの日には綱崎の浜で魚を釣り、千代姫に食べてもらいました。富造が釣ってきた魚だけは千代姫も「おいしい、おいしい」と言って食べました。そのため、富造は仕事のない日は必ず釣りに行くことにしました。
秋の、ある日のことです。仕事が休みなので、富造はいつものように釣りに行こうとしました。ところが、この日に限って、千代姫は釣りに行くことを反対しました。
「きょうは天気がどうもおかしいようです。きょうは行かないでください」
空を見上げると、低い雲が西のほうへ流れています。天気が悪くなる前触れです。でも、富造にとって自分が釣ってきた魚を千代姫がおいしそうに食べるのを見るのが大きな楽しみでした。
「大丈夫だよ。おいしい魚を釣って帰ってくるから」
富造は綱崎の浜へ出掛けていきました。(つづく)=切り絵・村杉創夢
[ 赤穂の昔話 ]
掲載紙面(PDF):
2020年6月13日(2374号)2面 (4,244,493byte)
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