2020年08月01日
昔むかし、大津の帆坂池に大きな蛇がすんでいました。池のまわりには何百本という杉の木が茂り、大蛇は枝から落ちてくる杉の精分を含んだ水滴が、とても苦手でした。
「杉の水が当たると痛くてかなわん。何とかならんかのう」。大蛇は山伏に変身して赤穂の城下へ向かいました。
そのころ、赤穂の城下では水不足で困っていました。山伏になった大蛇は殿様の前に進み出て、「帆坂池のまわりでは、いつも雨が降っています。ところが、赤穂の城下は水不足です。これは帆坂池の龍神様が怒っているからにちがいありません」と言いました。
「何故じゃ。龍神様は何を怒っているのじゃ、申してみよ」と尋ねる殿様に、山伏は「龍神様は杉の木が大嫌いです。池のまわりの杉の木を全部切ってしまえば、龍神様もお喜びになり、きっと雨を降らせてくれることでしょう」と言いました。
殿様は、さっそく池のまわりの杉を一本残らず家来に切らせました。ところが、雨は一向に降りません。怒った殿様が山伏を捕らえるよう家来に命じると、山伏は大蛇の姿に戻り、帆坂池に逃げ込んでしまいました。
「おのれっ。龍神様の名をつかい、余をだましたな。何としても討ち取れ!」
殿様はかんかんに怒り、家来に厳しく命令しましたが、大蛇は池の中です。どうしようもありません。
そこへ一人の石工が通りがかりました。話を聞いた石工は、肩にかけた袋から玄翁(石を割るときに使う鉄の槌)を取り出し、「ここだっ!」と勢いよく池に投げ入れました。玄翁は大蛇の頭に命中し、池の水は真っ赤になりました。それが黒く変わったかと思うと、噴水のように空に向かって噴き上がり、その水をつたって大蛇は雲のかなたに姿を消してしまいました。
それ以来、帆坂池の主は「玄翁」ということになりました。玄翁のさびが少しずつ溶けるためか、帆坂池はいつも茶色くにごっている、ということです。(赤穂市教育委員会刊『赤穂の昔話 第一集』・「池の主は玄翁」より)=切り絵・村杉創夢
[ 赤穂の昔話 ]
掲載紙面(PDF):
2020年8月1日号(2380号)2面 (8,631,834byte)
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