2021年08月28日
切り絵・村杉創夢
波の静かな、おだやかな日でした。高砂の漁師が坂越の沖で漁をしていると、いつもとちがって、何か重いものが網にかかりました。
牡蠣の殻でおおわれたものを手にした漁師は、「これは普通のものではない」と、ていねいに殻をとりのぞきました。
何と、そこには阿弥陀さまの、おだやかな顔があらわれてきました。
「これは、これはもったいないこっちゃ。わしに祀ってくれということにちがいない。はよう持って帰り、お祀りせにゃ」
と、漁をやめ、高砂に帰ろうと途中まで来ると、舟は坂越の方にぐるっと向きをかえるのです。
漁師は、力いっぱい高砂の方に向きをかえ、舟をこぐのですが、やっぱり坂越の方に向いてしまい、帰ることができません。
これまで、こんなことがあったためしがなく、不思議に思った漁師は、
「これは、舟に積んでいる阿弥陀さまが、高砂に行きたくないんや。坂越に縁があり、ここで祀ってほしいのにちがいない」
と思い、坂越の港に引き返しました。
そして、坂越の漁師に、
「是非、この土地に、お祀りして下さい」
と頼むと、坂越の漁師も心よく引き受けたので、高砂の漁師は無事家に帰ることができました。
今でも背中に牡蠣の殻のついた阿弥陀さまが、妙道寺に祀られていると言われています。(赤穂市教育委員会刊『赤穂の昔話 第二集』・「妙道寺の阿弥陀さま」より)
[ 赤穂の昔話 ]
掲載紙面(PDF):
2021年8月28日号(2429号)3面 (5,770,893byte)
コメント
※コメントは投稿内容を赤穂民報社において確認の上、表示します。投稿ルールを遵守できる方のみご投稿ください。