2022年01月29日
切り絵=村杉創夢
何となくもの淋しい、秋の夜のことです。一人の芸人が有年から赤穂へ行くために周世坂にさしかかりました。
周世坂には「高ぼそ」が出るという噂があり、芸人は「どうぞ今夜は何もないように」とおびえながら坂を登って行きました。
とにかく、早く周世坂の地蔵さんのところまで行こうと、一目散に走り、地蔵さんに手を合わせ、やれやれと前の方を見ると、白いものがつっ立って、手を振っています。
「アッ!」
と、思わず声が出て、動けなくなってしまいました。
あたりは暗く、誰一人として山道を通っていません。有年に引き返すことも、もうできません。白いものは、大きくなったり、小さくなったりし、相変わらず芸人に手を振っています。
芸人は土下座して、
「わしは何も悪いもんではない。芸人なんや。このとおり三味線を持っている。三味線を弾いてやるからこらえてくれ」
と、死にものぐるいで、ピンピン弾きました。
でも、白いものは少しも動きません。じっとこちらを見ています。
芸人はもう必死で、
「金が欲しいなら、ここに持っている金を全部やる。三味線が欲しいなら持っていけ。命だけは助けてくれ」
声を振り絞って頼みました。けれども、その白いものは何とも言わず、やっぱりつっ立ったままです。
芸人は動くこともできず、地面に頭をつけたままで、生きた心地はしません。
そうこうしているうちに、東の空が白んできました。芸人は恐る恐る顔を半分あげ、前を見ると、なんと、そこにつっ立っていたのは、かやんぼの枯れた穂でした。芸人は腰が抜けたように、そこに座りこんでしまいました。(赤穂市教育委員会刊『赤穂の昔話 第二集』・「枯れ尾花」より)
[ 赤穂の昔話 ]
掲載紙面(PDF):
2022年1月29日号(2448号)3面 (7,614,935byte)
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