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赤穂の昔話・第35話「大蛇と入電池」

2022年04月29日

 昔むかし、讃岐(現在の香川県)の満濃池に雄の大蛇がすんでいました。この大蛇は琵琶湖にいる雌の大蛇が好きで、毎日のように通っていました。

 ある夏の日。小豆島の方から黒い雲が一直線に近づき、福浦の大泊と五軒家の間の入江に降りました。村人が雨戸を閉めてじーっとしていると、何も起こりません。どうやら、一休みして、飛び去ったようでした。

 その頃、五軒家には乙姫という美しい娘がいました。乙姫は気立てもよく、いつも笑顔の絶えない娘でした。

 ところが、だんだんと食欲がなくなり、ついにやせ衰えて、病の床に伏してしまいました。心配した両親に頼まれて娘をみた占い師は、「大蛇の精にとりつかれた病じゃ。取り除かねば、いずれ死ぬじゃろう。大蛇を殺すより方法はないが、それほどの勇気のある者はおらんじゃろう」と言いました。

 父は、村のはずれに住む年老いた武士のことを思い出しました。武士は宮崎刑部という名前で、かつて京の都で衛士を務めた弓の名人でした。

 乙姫の父から話を聞いた刑部は「それはお気の毒なこと。及ばずながら拙者が力を貸そう」と引き受けました。

 月夜の下、刑部は岩陰に隠れて大蛇が来るのを待ちました。鹿久居島の方向に黒い雲が見えたかと思うと、二つの大きな目玉がこちらに向かってやって来ました。刑部は矢を大蛇の両目に命中させました。大蛇が苦しみもがくと周りに真っ黒な雲が湧き起こり、大きな音とともに雷が落ちました。


切り絵・村杉創夢

切り絵・村杉創夢


 明くる日の朝、村人たちが集まると、雷が落ちたところに大きな穴ができ、水がたまって池になっていました。その日から乙姫の病も回復に向かいました。村人たちは、この池を入電池と呼び、大蛇を裏山にまつりました。これが福浦にある竜神社だということです。(赤穂市教育委員会刊『赤穂の昔話』・「大蛇と入電池」より)


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