赤穂出身の調教師が競馬の天皇賞制す
2008年05月17日
念願のGIを勝った友道康夫調教師と天皇賞の勝ち馬レイ
京都競馬場芝3200メートルのコースで行われた同競走には東西の強豪14頭が出走。前哨戦の阪神大賞典を勝って3番人気に推されたジュピタはスタートでの出遅れをもろともせず、落ち着いて1番人気のアサクサキングスをマーク。最後の直線で出走馬中最速の末脚を爆発させて先頭に立つと、天皇賞3連覇を狙ったダービー馬・メイショウサムソンの追撃をアタマ差で振り切り、鞍上の名手・岩田康誠騎手に「馬の方が冷静だった」と言わしめた。
天皇賞は日本中央競馬会(JRA)が主催するレースの中で最も格が高いGI競走の一つ。過去の勝ち馬にはシンボリルドルフ、タマモクロス、ディープインパクトなど歴代の優駿が名を連ね、“現役最強馬決定戦”といっても過言ではない。
ジュピタは、友道さんが一目見てすぐに「歩様が柔らかく、一流馬に育つ雰囲気がある」とオーナーに購入を進言した一頭。3歳時の右後肢骨折でダービーへの出走は叶わなかったが、1年4カ月のブランクを経た復帰戦を勝利で飾ると格上挑戦のGIIレースでも1着と、天性の素質を開花させた。「本当なら、ダービーでサムソンといい勝負をしたはず」と確信していた友道さんは迷うことなく春の天皇賞に照準を定めた。
当日のレースはゴール前の調教師席で見守った。大歓声の中を懸命に駆けてくるジュピタ。ゴールした瞬間は「勝ち負けよりも、馬が大丈夫かどうか」が気になった。ターフビジョンに映し出されたスロー映像で無事と勝利が分かると、馬主と抱き合って号泣した。
赤穂高校から獣医を目指して大阪府立大農学部へ進学。馬術部の先輩に誘われるままに引き受けたのが競馬場の警備アルバイトだった。
「かわいくて、美しくて、走る姿が感動的」とサラブレッドに魅せられた。大学の博士課程を修了するまでアルバイトを続け、JRA競馬学校の厩務員課程へ。調教師界の重鎮・浅見国一師の下で経験を蓄積し、松田国英厩舎に移籍後は調教助手として担当したクロフネをGIで2勝させるなど馬を育てる手腕は早くから光っていた。
平成13年、6度目の挑戦で調教師試験をパス。滋賀県の栗東トレーニングセンターに厩舎を構え、現在は13人のスタッフとともに45頭を管理している。「調教師になったときからの夢だった」というGI制覇を最も権威あるレースで成し遂げた。
「強いサムソンに力勝負で勝ったのが一番うれしい」と友道さん。ジュピタは競走後も順調で10日に放牧先の北海道へ移動。秋口まで激戦の疲れを癒し、秋の天皇賞、ジャパンカップ、有馬記念の“王道路線”を歩むプランを描いている。
獣医志望だった人らしく、「馬にストレスを残さないこと」を常に心がけて調教する友道さん。ほぼ毎週、管理馬が出走しており、「ジュピタ以外にも期待の馬がいるので応援してください」。
* * *
友道さんの母も快挙にニッコリ
坂越汐見の実家に暮らすフランス刺しゅう講師の母・喜久子さん(68)のもとにも祝福する声が続々と寄せられている。
レース当日は作品展の準備で姫路に出かけており、夕方になって親戚からのメールで吉報を知った。夜にビデオを見て、「鳥肌が立ちました」と振り返る。
父・皓二さんは友道さんが調教師に合格した年の暮れに亡くなった。「夫もきっと喜んでいると思います」と喜久子さん。レースがあった日の夜、「親孝行してくれてありがとう」と康夫さん夫婦にメールを送った。
「今度、赤穂に帰ってきたら好物の煮魚で迎えてあげたい」と親心をのぞかせつつ、「支えてくれている周りの方々への感謝を忘れずにがんばってほしい」とエール。「次の機会には競馬場へ応援に行こうかしら」と笑顔で話していた。
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掲載紙面(PDF):
2008年5月17日(1795号) 1面 (8,886,239byte)
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