視覚障害者の“就活”探る
2013年01月25日
報告会の発表を終え、ゼミ仲間と一緒に笑顔で記念写真に収まる中蔦麻希さん=前列中央
神戸市出身の中蔦麻希さん(20)は社会福祉学部の2回生。未熟児網膜症のため徐々に視力が弱まり、右目の視力は0・01、左目は「明暗がわかる程度」という。自分の将来の可能性を広げようと神戸市立盲学校から同大へ進学。親元を離れ、大学近くに借りたアパートから白杖を頼りに徒歩通学している。授業では大学から支給された点字テキストを開き、キーボード入力した文字情報を点字で記録できる機器でノートを取る。先生の声を正確に聴き取ろうと、いつも教室の最前列で講義を受けている。
7月に研究テーマを決定した同ゼミはインターネット、文献などで情報収集。視覚障害者の4人に1人程度しか仕事に就けていない上に、就労先の6割以上が「鍼」「灸」「あんま・マッサージ」の“三療法”で、職業選択の幅は極めて限られていることがわかった。
ハローワークなど関係機関へも話を聞きに足を運んだ。視覚障害者の就職をサポートしている盲学校の職員からは「職場体験は受け入れても、実際には雇用を断る企業の方が多い」との実態を耳にした。一般企業への聞き取りでは、「弱視者の雇用はあるが、全盲者は雇用していない」と面接の機会すら与えられない厳しい現状を突きつけられた。
調査を通して、国や県の支援体制も「思った以上に不十分」と感じた。一方、障害者向けに特化した民間の求人情報サイトが開設されていること、視覚障害のある弁護士が国内に3人存在していることがわかったほか、2年前に静岡で全盲の大学生が社会福祉士の国家試験に合格した新聞記事も見つけた。数は少ないものの、点訳された参考書が出版されていることもわかった。
報告会では、「同情するなら職をくれ!」と題し、ゼミ仲間が順番に発表をリレー。最後にマイクが中蔦さんに渡された。「私がこの大学で学ぶ意義というものがみえたような気がします。これからも、いや、これまで以上に頑張って大学の講義を受けようと決意しました」などとメッセージを読み上げ、会場から拍手が送られた。
同じゼミ生の吉形宗竜さん(20)は「中蔦さんはパソコンもスマホも僕らより上手く扱える。能力が正当に評価される社会であるべき」と話す。リーダーの北園芽生さん(20)は「彼女が講義に集中しやすいように、授業中の私語を慎むことをみんなに呼び掛けたい」と今自分たちに出来ることを考えた。
ゼミを指導した有田伸弘准教授(54)は「電子機器の発達に伴い視覚障害者が活躍できるフィールドは劇的に拡大している。労働能力がない―という思い込みや偏見を取り除き、障害者が自分で職を探せる環境を整えることが求められている」と話している。
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2013年1月26日(2024号) 1面 (8,597,516byte)
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