鳥井の「曳きとんど」29年ぶり復活へ
2013年06月18日
昭和33年の曳きとんど。子どもから大人まで多くの住民が参加した様子がうかがえる=佐方直陽さん提供=
台車に乗せた左義長を音頭に合わせて綱で引き、にぎやかに海岸まで運んで点火するという珍しい形式。地域住民主体の実行委員会が立ち上がり、来月には行事に欠かせない三味線や太鼓などの稽古が始まる予定で、住民たちは「特色ある祭りを後世に引き継ぎたい」と張り切っている。
赤穂市教委によると、「曳きとんど」の起源や由来についての記録はほとんどなく、地元では約250年前の明和・安永年間(1764〜1780)に始まったと伝えられる。かつて諸国廻船の寄港地として栄えた坂越港にほど近い鳥井町は船乗りを相手に三味線や小唄を披露する芸達者が多く暮らし、「芸者町」と呼ばれた。山に挟まれた坂道沿いに家屋が軒を並べ、ほとんど平地がない立地も重なり、独特の祭りが生まれたと思われる。しかし、費用も労力もかかることから毎年は行われなかったようで、戦後は昭和33年、37年、50年、60年の4度のみ。その後は過疎と高齢化が進み、祭りに必要な人数を町内で確保することが困難になった。
経験者の話では1月15日の夜明け前、はっぴを着た囃子方、小学生のカスタネット隊など総勢約80人が隊列を組み、弓張提灯を先頭に出発。「鳥井の地蔵さんに振袖着せて奈良の大仏婿にとるー」などと都々逸の拍子で音頭をとり、とんどを乗せた台車を曳いた。数百メートル離れた海岸まで約1時間かけて練り歩き、「曳きとんどを行う正月は、普段の年にはない盛り上がりがあった」という。
同じ坂越地区で昨年11月、海に浮かべた組み立て式舞台で芸能を披露する「船だんじり」が64年ぶりに上演され、「鳥井の曳きとんども」と復活の機運が一気に高まった。船だんじりの再演にも関わった宮崎素一・有年考古館長(62)が発破をかけ、年明けから自治会の役員会で計画案を検討。また、通常は口承で行う和楽器の稽古をスムーズにしようと、囃子方として過去4度の参加経験がある佐方さよ子さん(77)が楽譜作りに着手した。4月から始めた採譜には、三味線歴37年の牟禮清美さん(66)=坂越=が協力。「耳と体で覚えている」という佐方さんの演奏と過去の録音テープを元に牟禮さんが音程を書き取った。
15日に坂越公民館で開かれた第1回実行委には他地区の協力者を含む計約40人が出席。次世代へ伝承するための記録作成を事業計画に盛り込むことや役割分担などを全会一致で承認した。会議後は台車や弓張提灯、はっぴなどを保管する地区集会所で備品を確認。前回の祭りを撮影したビデオが再生され、懐かしい映像に見入った。
「曳きとんどの三味線の音を聴くと、胸が高鳴ります」と佐方さん。実行委員会長を務める永石正勝・鳥井町自治会長(75)は「若い人たちにも誇りに感じてもらえる祭りにするために、しっかり準備したい」と話している。
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掲載紙面(PDF):
2013年6月22日(2042号) 1面 (9,552,224byte)
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