取材で振り返る木津の山火事
2014年05月17日
約70ヘクタールを焼失した木津の山火事現場。手前が千種ハイランド=兵庫県消防防災航空隊提供
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「あと数メートル」民家に迫った炎
119番通報は11日午後3時38分。男の母親が「山から煙が出ている」と電話した。5分後に市消防本部のポンプ車など3台が到着して放水を開始したが、東からの風にあおられた炎は勢いを増した。
同4時ごろには民家まであと数メートルの距離まで火の手が迫り、パトカーで駆けつけた警察官が付近住民に自主避難を呼び掛けた。風で巻き上がった灰が一帯に降り落ち、庭に飛んできた火の粉にあわてて水をかけた人もあったという。
出火現場から西約500メートルにある高齢者グループホーム「赤穂清山荘」の入居者11人は上郡町の関連施設へ職員が移送。スタッフの木村英子さんは「部屋の窓から火を見たお年寄りがとても怖がった」と振り返る。
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変わる風向き、延焼止まらず
消防団の消防車も続々と到着して放水を始めたことで家屋への類焼は何とか食い止まったものの、風向きは南からに変わり、火の手は中腹から山頂方向へ斜面を押し上がった。
急斜面を担いで上がった可搬式ポンプにホースを連結して送水したが、標高差を克服するために水圧を上げると圧力に耐えきれなくなったホースが破裂。足場も悪く、消火活動は困難を極めた。
すでに防災ヘリによる空中散水が行われていたが、高圧電線がある辺りには近づけず、火災は尾根を越えて山陽自動車道が通る清水谷方面へ拡大していった。高速道路の先には危険物を取り扱う化学工場やプロパンガスの貯蔵施設、そして民家があり、各社は可燃物搬出などの対応に追われた。
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陸上自衛隊に災害派遣要請
赤穂市は11日午後6時に災害警戒本部を設置。同7時45分に林野火災対策本部へ移行した。
本部長の豆田正明市長は同8時30分、自衛隊の災害派遣要請を兵庫県に連絡。井戸敏三知事は同9時40分、姫路の陸上自衛隊第3特科隊長に要請した。
市が要請してから陸自へ連絡するまで1時間10分を要したことについて県は赤穂民報の取材に、「書類上の正式な時刻は9時40分だが、実際は要請を受けた5分後に自衛隊に派遣を打診して準備を進めた」と答えた。
同10時45分に自衛隊の担当者が対策本部に到着。明朝、夜明けと同時にヘリによる上空散水を開始する計画が決まった。
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夜を徹して懸命の消火
現場では住宅地や清水谷工業団地への類焼を防ごうと、消防による消火活動が徹夜で行われた。
工業団地側では、第15分団が取水して第6分団が中継、さらに応援に駆けつけた姫路隊に連結送水。取水口から約120メートル離れた高速道路上からの放水で延焼防止に効果を上げた。市消防団が山火事を想定した年一度の連結送水訓練を3月に行ったばかりだったことも功を奏した。
前日午後5時45分から龍野西−赤穂IC間が上下線とも通行止めとなっていた山陽自動車道は12日午前1時29分に復旧。対策本部は同5時55分に「火勢鎮圧」を発表し、不安な夜を過ごした住民に安堵が広がった。
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バーベキューの残り火不始末か
赤穂署は12日午前9時10分、消火を確認せずに炭火を投棄して山林に燃え移らせた疑いで男を逮捕した。
調べによると、男は11日正午ごろから木津千種ハイランドの自宅庭で親族6人でバーベキュー。午後3時ごろ、使い終わったコンロの中の炭をフェンス越しに山へ捨てて家の中に入ったという。
30分ほど経って煙に気付いた男が庭のホースで放水したが消し止めることは出来ず、自宅から10メートルほどの距離にある消火栓を使おうとしたが筒先の接続を誤った。煙を見て車で駆けつけた木津の会社員、関孝行さん(54)が正しくつなぎ直して放水したときには、すでに手遅れだった。
関さんは「家庭用ホースで放水したりせず大声を出して人を呼んで、始めから消火栓を正しく使えていれば確実に初期消火できていたはず」と悔やむ。千種自治会の久保公二会長(66)は「これを教訓とし、防災訓練の内容を充実したものに考えたい」と話した。
男は調べに対し、「もう消えたと思い、水をかけずに炭を捨てた」と容疑を認め、「申し訳ないことをしてしまった」などと反省の弁を述べているという。
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おにぎり2千個、住民が炊き出し
「きっと必要になるから」。千種自治会の女性有志らは消防サイレンを耳にしてから1時間も経たないうちに炊き出しを始めた。各自の家からお米、梅干し、昆布などを集会所に持ち寄り、せっせとおにぎりをこしらえた。
当初は避難者のためにと想定していたが、消火活動が日をまたぐことが確実で消防関係者の糧秣も必要だということになり、集会所にある五升炊きと三升炊きの炊飯器をフル稼働。木津、目坂、目坂清水の各集会所でも炊き出しが始まり、翌日の朝食分を合わせて計2000個の握り飯を供給した。徹夜で握り続けたという女性は「炊きたてのご飯は手が熱いのですが、火に向かってくれている消防の皆さんのことを思って頑張りました」とその時の気持ちを話した。
現場近くに張り付いたまま集会所に戻ることのできない分団には消防団女性部の団員たちが配達した。望月昌次団長(65)は「炊き出しのおかげで士気が上がった。火災は残念なことだが、消防や関係機関と住民がスクラムを組んで立ち向かえたことは誇らしい」と称えた。
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掲載紙面(PDF):
2014年5月17日(2087号) 1面 (10,345,416byte)
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コメント
ありがたかった!腹が減っては、戦はできぬ、このおかげ
で、消火活動が、頑張って出来ました!本当にありがとうございます。
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投稿:消防組組頭 2014年05月17日0 0
投稿:江戸一番の火消し 2014年05月17日0 0
投稿:米 2014年05月17日コメントを書く