関西福祉大学リレーコラム・健康を守る(2)
2016年04月29日
【看護(介護)の技術はArt(アート)&Science(サイエンス)】
前回のお話で、私は看護学部で看護技術という科目を主に担当しているとお話しました。具体的には、療養する人の日常生活の援助(食事、清潔、排泄、移動などのケア)と診療の補助(注射や点滴など)といった内容です。
看護技術を英語では、「Nursing Art(ナーシング・アート)」と訳します。“技術”の部分をTechnique(テクニック)でもSkill(スキル)でもなく「Art(アート)」と表現します。この違いは、テクニックは‘基礎的な技’、スキルは‘経験や訓練によって熟練した技能’の意味合いが強いのに対して、アートは‘創造的な技術・技芸’の意味を持ちます。
看護の技術をArt(アート)と表現する所以は、その内容が単なる技(わざ)の積み重ねというだけでなく、ケアをする人もケアを受ける人もそれぞれ唯一無二の存在で、例えば、体を拭いたり、排泄のお世話をする際にも、体の特徴に合わせてどのような道具を選ぶか、どのような順番、方法で実施するか、ケアが終わった後、どのように衣服を整えるか、どんな声かけをして相手を安心させるかなど、ケアを受ける人へのちょっとした細やかな配慮なども含めて、その場面や状況に合わせて最適な方法を考えて実践し、またさらにより良い方法を追求するというのがその基本だからです。
看護(介護)者のベテランは、経験の長さだけでなく、その人の持つセンスなどでその内容は違ったものにもなります。創造的な側面が非常に重要な意味を持つのが「Nursing Art(ナーシング・アート)」です。
要するに、看護(介護)する人は、それを受ける人の立場に立ってその気持ちを想像できる“こころ”が大切で、機械的にケアができればいいというわけではないのです。そして「Art(こころのこもった技)」に加えて「Science(サイエンス)(科学)」も同様に、看護技術では重要なキーワードです。
私が子どもの頃、転んで膝を擦りむいた時の傷の手当の方法は、傷がしみるのを必死に我慢して消毒薬で消毒し、できるだけ乾燥させてカサブタを作って、その後、痒みと戦いながら自然にカサブタが取れるのを待つ…というのが主流だったように記憶しています。
現在はそんなことはしません。ご存知の通り、転んで擦りむいたぐらいの傷であれば、消毒薬は使わず、水道水で汚れをきれいに洗い流し、できるだけ傷口を湿潤した環境に保つ素材の絆創膏を貼り、なるべくカサブタなんてつくらない。それが傷痕を残さず早く治癒させる最近の傷の手当の方法です。
この変化の背景にはこれまでの研究の積み重ねによって明らかとなった科学的根拠があります。こんなふうに、昨日まで善しとされていたケアの方法も明日には全く逆だったということが今後もあるかもしれません。ケアする人は、そのような情報にも敏感に、探究(科学)する気持ちを常に忘れないことが肝心です。(前川泰子・看護学部准教授)
掲載紙面(PDF):
2016年4月29日(2183号) 3面 (11,356,121byte)
(PDFファイルを閲覧するにはこちらからAdobe Readerを入手してください。)
前回のお話で、私は看護学部で看護技術という科目を主に担当しているとお話しました。具体的には、療養する人の日常生活の援助(食事、清潔、排泄、移動などのケア)と診療の補助(注射や点滴など)といった内容です。
看護技術を英語では、「Nursing Art(ナーシング・アート)」と訳します。“技術”の部分をTechnique(テクニック)でもSkill(スキル)でもなく「Art(アート)」と表現します。この違いは、テクニックは‘基礎的な技’、スキルは‘経験や訓練によって熟練した技能’の意味合いが強いのに対して、アートは‘創造的な技術・技芸’の意味を持ちます。
看護の技術をArt(アート)と表現する所以は、その内容が単なる技(わざ)の積み重ねというだけでなく、ケアをする人もケアを受ける人もそれぞれ唯一無二の存在で、例えば、体を拭いたり、排泄のお世話をする際にも、体の特徴に合わせてどのような道具を選ぶか、どのような順番、方法で実施するか、ケアが終わった後、どのように衣服を整えるか、どんな声かけをして相手を安心させるかなど、ケアを受ける人へのちょっとした細やかな配慮なども含めて、その場面や状況に合わせて最適な方法を考えて実践し、またさらにより良い方法を追求するというのがその基本だからです。
看護(介護)者のベテランは、経験の長さだけでなく、その人の持つセンスなどでその内容は違ったものにもなります。創造的な側面が非常に重要な意味を持つのが「Nursing Art(ナーシング・アート)」です。
要するに、看護(介護)する人は、それを受ける人の立場に立ってその気持ちを想像できる“こころ”が大切で、機械的にケアができればいいというわけではないのです。そして「Art(こころのこもった技)」に加えて「Science(サイエンス)(科学)」も同様に、看護技術では重要なキーワードです。
私が子どもの頃、転んで膝を擦りむいた時の傷の手当の方法は、傷がしみるのを必死に我慢して消毒薬で消毒し、できるだけ乾燥させてカサブタを作って、その後、痒みと戦いながら自然にカサブタが取れるのを待つ…というのが主流だったように記憶しています。
現在はそんなことはしません。ご存知の通り、転んで擦りむいたぐらいの傷であれば、消毒薬は使わず、水道水で汚れをきれいに洗い流し、できるだけ傷口を湿潤した環境に保つ素材の絆創膏を貼り、なるべくカサブタなんてつくらない。それが傷痕を残さず早く治癒させる最近の傷の手当の方法です。
この変化の背景にはこれまでの研究の積み重ねによって明らかとなった科学的根拠があります。こんなふうに、昨日まで善しとされていたケアの方法も明日には全く逆だったということが今後もあるかもしれません。ケアする人は、そのような情報にも敏感に、探究(科学)する気持ちを常に忘れないことが肝心です。(前川泰子・看護学部准教授)
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2016年4月29日(2183号) 3面 (11,356,121byte)
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