関福大リレーコラム・赤ちゃんは有能な存在
2019年03月02日
赤ちゃんは英語で「infant」ですが、その語源を知っていますか。
fantは「話す」、inは「否定」の意味をもつので、infantは「話せない人」という解釈になります。生後間もない赤ちゃんは「話せない人」に違いないのですが、それ以上に、人としてあまりに未熟で無力な様をその言葉に込めたとも言われます。
ジョン・ロックは「人は『白紙』の状態で生まれる」と言い、「白紙」に赤ちゃんの無力さを表現しました。このように、子どもを「無能で未熟で劣弱な存在」と捉え、大人に近づけることが社会の役割と考えられた時代がありました。今はそれ程ではないにしても、やはり「赤ちゃんは何もできない」と考える人は少なくないでしょう。果たして赤ちゃんは本当に未熟で無力な存在なのでしょうか。今回は赤ちゃんの能力について、ほんの少しですが、お話しましょう。
例えば、32週目頃の胎児。彼らは「外」の音の聞き分けると言いますが、何と、その音を生まれた後も覚えているようなのです。生後間もない赤ちゃんに、母親の声と別の女性の声を聞かせた研究によると、胎児期によく聞いた声(=母親の声)に強く反応したそうです。また、日本人にとってr(アール)とl(エル)の違いを聞き分けることは至難の業ですが、赤ちゃんは遊びながらやって退けます。生後しばらくは、世界中の国の音素を聞き分ける能力を持つというから驚きです。
人の顔への認識も早く、最初は何に対しても(お面にさえも)笑顔を見せますが、そのうち、いつも自分の近くにいる人にだけ笑顔を向けるようになります。知らない人に抱っこされて泣くのは、信頼する人の顔を記憶し、それ以外の人の顔と区別できている証です。お分かりでしょうか。彼らは色々な才能をすでに持っていて、環境に合わせてそれをバージョンアップさせているのです。
少し難しい表現をするなら、その才能の正体は「神経細胞」です。出生時、140億個以上の膨大な数がすでに準備されています。神経細胞を「花の蕾(つぼみ)」に例えるなら、ここに水が入り、花がゆっくりと開く様なイメージでしょうか。「水」は環境からの「刺激」です。人からの働きかけはもちろん、音や光、動きなどすべてが刺激となり、彼らの世界をより豊かにしていきます。赤ちゃんは、自分の可能性を最大限に引き出すために、あえて蕾を閉じたまま「外」に出る道を選んだのでしょう。
私たち大人ができること。それは、抱きしめ、話しかけ、目を合わせて笑い合うことです。「抱き癖」を心配する声も聞きますが、心配不要です。抱きしめられる時に、思い切り抱きしめてあげて下さい。人の肌の温もりそのものが、赤ちゃんの感情を安定させ、信頼感の土台を作り、知能の発達を促します。
次回は、親と子どもの心の絆―「愛着」についてお話します。お楽しみに。(教育学部児童教育学科教授・大山摩希子)
掲載紙面(PDF):
2019年3月2日号(2316号) 3面 (10,873,632byte)
(PDFファイルを閲覧するにはこちらからAdobe Readerを入手してください。)
fantは「話す」、inは「否定」の意味をもつので、infantは「話せない人」という解釈になります。生後間もない赤ちゃんは「話せない人」に違いないのですが、それ以上に、人としてあまりに未熟で無力な様をその言葉に込めたとも言われます。
ジョン・ロックは「人は『白紙』の状態で生まれる」と言い、「白紙」に赤ちゃんの無力さを表現しました。このように、子どもを「無能で未熟で劣弱な存在」と捉え、大人に近づけることが社会の役割と考えられた時代がありました。今はそれ程ではないにしても、やはり「赤ちゃんは何もできない」と考える人は少なくないでしょう。果たして赤ちゃんは本当に未熟で無力な存在なのでしょうか。今回は赤ちゃんの能力について、ほんの少しですが、お話しましょう。
例えば、32週目頃の胎児。彼らは「外」の音の聞き分けると言いますが、何と、その音を生まれた後も覚えているようなのです。生後間もない赤ちゃんに、母親の声と別の女性の声を聞かせた研究によると、胎児期によく聞いた声(=母親の声)に強く反応したそうです。また、日本人にとってr(アール)とl(エル)の違いを聞き分けることは至難の業ですが、赤ちゃんは遊びながらやって退けます。生後しばらくは、世界中の国の音素を聞き分ける能力を持つというから驚きです。
人の顔への認識も早く、最初は何に対しても(お面にさえも)笑顔を見せますが、そのうち、いつも自分の近くにいる人にだけ笑顔を向けるようになります。知らない人に抱っこされて泣くのは、信頼する人の顔を記憶し、それ以外の人の顔と区別できている証です。お分かりでしょうか。彼らは色々な才能をすでに持っていて、環境に合わせてそれをバージョンアップさせているのです。
少し難しい表現をするなら、その才能の正体は「神経細胞」です。出生時、140億個以上の膨大な数がすでに準備されています。神経細胞を「花の蕾(つぼみ)」に例えるなら、ここに水が入り、花がゆっくりと開く様なイメージでしょうか。「水」は環境からの「刺激」です。人からの働きかけはもちろん、音や光、動きなどすべてが刺激となり、彼らの世界をより豊かにしていきます。赤ちゃんは、自分の可能性を最大限に引き出すために、あえて蕾を閉じたまま「外」に出る道を選んだのでしょう。
私たち大人ができること。それは、抱きしめ、話しかけ、目を合わせて笑い合うことです。「抱き癖」を心配する声も聞きますが、心配不要です。抱きしめられる時に、思い切り抱きしめてあげて下さい。人の肌の温もりそのものが、赤ちゃんの感情を安定させ、信頼感の土台を作り、知能の発達を促します。
次回は、親と子どもの心の絆―「愛着」についてお話します。お楽しみに。(教育学部児童教育学科教授・大山摩希子)
<前の記事 |
掲載紙面(PDF):
2019年3月2日号(2316号) 3面 (10,873,632byte)
(PDFファイルを閲覧するにはこちらからAdobe Readerを入手してください。)
[ かしこい子育て ]
関福大リレーコラム・具体的にほめる 2020年02月07日関福大リレーコラム・何をおいても知的好奇心と自尊感情を育てること 2020年01月25日関福大リレーコラム・賢く、粘り強くがんばる力こそが重要 2020年01月09日関福大リレーコラム・教育改革における民主主義の再考 2019年12月21日関福大リレーコラム・義務教育って何? 2019年11月23日関福大リレーコラム・「なぜ、勉強するのか?」を考える 2019年11月09日関福大リレーコラム・「教育のパラドクス」を考える 2019年10月05日関福大リレーコラム・礼儀作法は『厳しさ』の美学 2019年09月28日関福大リレーコラム・意欲を育てるには 2019年09月07日関福大リレーコラム・地形にふれてみましょう 2019年08月24日関福大リレーコラム・話し言葉は心を写す鏡 2019年07月20日関福大リレーコラム・ラジオ体操のススメ 2019年07月06日関福大リレーコラム・眠育のススメ 2019年06月22日関福大リレーコラム・ネット断ちのススメ 2019年06月08日関福大リレーコラム・外遊びのススメ 2019年05月25日
コメントを書く