関福大リレーコラム・子どもの「やる気」とは?
2019年05月11日
一生懸命に勉強をしている子どもを見て、どのように声をかけますか?「やる気、あるね」でしょうか。それでは、授業中に窓の外をボンヤリと眺める子どもには…?
私たちの行動の裏には、常に理由があります。食事には空腹を満たすという理由があり、余暇には気晴らしという理由があります。理由がなければ行動も起こらないので、「理由」は「行動を起こすためのエネルギー」とも言えます。このエネルギーを、心理学では「動機づけ」と呼んでいます。
今、机に向かって熱心に勉強をする二人の男の子―小学校1年生のA君とB君―をイメージしてみてください。
彼らに学ぶ理由を聞いてみたところ、A君は「新しい知識が増えるのが楽しい」と答え、B君は「100点とったら自転車を買ってもらえる」と答えたとします。A君のように、勉強の理由が自分の興味・関心なら「内発的動機づけ」、B君のように、勉強の理由が外からコントロールされるものなら「外発的動機づけ」となり、二人の行動は同じでもエネルギーは異なります。
教育の目的の一つは、子どもの内発的動機づけを高めることにあります。では、内発的動機づけが「やる気」の正体でしょうか。いいえ、少し違います。もう少しA君を追いかけてみましょう。
小学校6年生になったA君は、相変わらず一生懸命勉強をしています。再び学ぶ理由を聞いてみたところ、「少しでも良い成績が取りたいから」という返事が戻ってきました。この理由、数年前のA君のとは違っていますね。このように、子どもはある一定の年齢に達すると、「行動そのものの楽しさ」から「やるからには成果を挙げたい」へと理由を変えていきます。
この「やるからには…」こそが「やる気」の正体で、心理学では「達成動機」と呼ばれます。「やる気のある子ども」とはつまり、「やり遂げたい、成果を挙げたい」と願う子どものことです。では、勉強に身が入らない子どもは、成果を求めていないのでしょうか。
私たち大人は「やる気→行動」と考えがちですので、「行動しない=やる気がない」という目で子どもを見てしまいます。しかし、人の「心」はそう単純ではありません。行動を起こすにはもう一つ、「自分ならできる」という強い気持ちが必要です。
この気持ちは「統制感」と呼ばれ、「やる気」との両輪で子どもの行動の後押しをします。「統制感」が低い子どもは、やる気があっても行動を起こすことはありません。「どうせ自分は失敗する」という考えが足をすくませ、行動を止めてしまうからです。その結果、「やる気があるのに行動はしない」という奇妙な現象が成立することになります。
統制感は、失敗経験の連続により低下していきます。大人でも、何度も失敗すると落ち込み、気力が失われていきます。このような時、周りの人から「やる気、あるの?」と言われたらどうでしょう。やる気の有無を行動の有無だけで判断するのは、とても危険です。失敗経験を抱えて動けなくなった子どもを、さらに傷つけ、追い詰めてしまうからです。私たち大人は、やる気や統制感を正しく理解し、適切な声かけを行わなければなりません。統制感を低めてしまった子どものケアについては、またの機会に。(教育学部児童教育学科教授・大山摩希子)
* * *
次回からは教育学部児童教育学科の秋川陽一教授のコラムです。
掲載紙面(PDF):
2019年5月11日号(2324号) 4面 (9,297,055byte)
(PDFファイルを閲覧するにはこちらからAdobe Readerを入手してください。)
私たちの行動の裏には、常に理由があります。食事には空腹を満たすという理由があり、余暇には気晴らしという理由があります。理由がなければ行動も起こらないので、「理由」は「行動を起こすためのエネルギー」とも言えます。このエネルギーを、心理学では「動機づけ」と呼んでいます。
今、机に向かって熱心に勉強をする二人の男の子―小学校1年生のA君とB君―をイメージしてみてください。
彼らに学ぶ理由を聞いてみたところ、A君は「新しい知識が増えるのが楽しい」と答え、B君は「100点とったら自転車を買ってもらえる」と答えたとします。A君のように、勉強の理由が自分の興味・関心なら「内発的動機づけ」、B君のように、勉強の理由が外からコントロールされるものなら「外発的動機づけ」となり、二人の行動は同じでもエネルギーは異なります。
教育の目的の一つは、子どもの内発的動機づけを高めることにあります。では、内発的動機づけが「やる気」の正体でしょうか。いいえ、少し違います。もう少しA君を追いかけてみましょう。
小学校6年生になったA君は、相変わらず一生懸命勉強をしています。再び学ぶ理由を聞いてみたところ、「少しでも良い成績が取りたいから」という返事が戻ってきました。この理由、数年前のA君のとは違っていますね。このように、子どもはある一定の年齢に達すると、「行動そのものの楽しさ」から「やるからには成果を挙げたい」へと理由を変えていきます。
この「やるからには…」こそが「やる気」の正体で、心理学では「達成動機」と呼ばれます。「やる気のある子ども」とはつまり、「やり遂げたい、成果を挙げたい」と願う子どものことです。では、勉強に身が入らない子どもは、成果を求めていないのでしょうか。
私たち大人は「やる気→行動」と考えがちですので、「行動しない=やる気がない」という目で子どもを見てしまいます。しかし、人の「心」はそう単純ではありません。行動を起こすにはもう一つ、「自分ならできる」という強い気持ちが必要です。
この気持ちは「統制感」と呼ばれ、「やる気」との両輪で子どもの行動の後押しをします。「統制感」が低い子どもは、やる気があっても行動を起こすことはありません。「どうせ自分は失敗する」という考えが足をすくませ、行動を止めてしまうからです。その結果、「やる気があるのに行動はしない」という奇妙な現象が成立することになります。
統制感は、失敗経験の連続により低下していきます。大人でも、何度も失敗すると落ち込み、気力が失われていきます。このような時、周りの人から「やる気、あるの?」と言われたらどうでしょう。やる気の有無を行動の有無だけで判断するのは、とても危険です。失敗経験を抱えて動けなくなった子どもを、さらに傷つけ、追い詰めてしまうからです。私たち大人は、やる気や統制感を正しく理解し、適切な声かけを行わなければなりません。統制感を低めてしまった子どものケアについては、またの機会に。(教育学部児童教育学科教授・大山摩希子)
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次回からは教育学部児童教育学科の秋川陽一教授のコラムです。
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2019年5月11日号(2324号) 4面 (9,297,055byte)
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