撤去伐採の宮前桜「新しい生命を」
2020年05月04日
水槽から引き揚げられた宮前桜。これ以外に大小約40本がある
宮前児童遊園には、公園が整備された1982年前後に植えられたとみられる高さ8メートルほどのソメイヨシノが3本あり、毎年春には地元住民や道行く人たちに親しまれた。すぐ前を通る市道赤穂大橋線の拡幅工事で公園の一部が車道や歩道になるため、昨年7月末、道路寄りの2本が撤去。伐採後の桜の木は「廃棄物」として処分されることになった。
それに待ったをかけたのが市内で木工会社「一嘉彩工(ひとかさいこう)」を営む茶谷誠さん(42)=御崎=。知人を通じて「この桜を連れて帰らないか」と声を掛けられ、「尾崎の地に根付き、慣れ親しまれた桜が処分されてしまうのは惜しい」と引き取りに手を上げた。伐採業者が切断した幹や枝を軽トラックで3回に分けて大津の作業場へ運搬。木材に一旦水を吸わせてから乾かす「水中乾燥」を施すため、水を張ったプラスチック樽や中古のバスタブに投入した。最も太い根元の部分は木枠とブルーシートで組み立てた自作の水槽に浸した。
それから約9か月。茶谷さんは4月下旬から5月初旬にかけて、桜を水から引き揚げた。樹液や汚れを洗い流すと、まるで伐採直後のような、きれいな木肌が現れた。今後1年から1年半かけて地上で自然乾燥すれば、割れや変形のない良質な木材になるという。
「人々の心を花で魅了するという役目は終わっても、また別の何かに生まれ変わることができる」と茶谷さん。堅い桜の木は加工に手間はかかるが、丈夫で屋外でも長持ちする利点があるという。
取り組みについてフェイスブックなどで情報発信したところ、「公園に置くベンチに」「木版画を彫ってみたい」「祭りに使う拍子木に加工して」といったアイデアがSNS仲間から寄せられた。茶谷さんは「何重にも重なった年輪に、この桜が愛されてきた年月の長さを改めて感じた。できれば、再び尾崎の町やみなさんに役立つものにしてお返ししたい」と話している。
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■宮前桜 水中保存の記録(茶谷誠さん作成)17.4MB
掲載紙面(PDF):
2020年5月16日号(2370号) 1面 (8,230,421byte)
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