受け継いだ技法磨き29年 赤穂緞通初個展
2020年11月11日
織り手となって29年目で初の個展を開いた赤穂緞通作家の見並なおこさん
赤穂市選定保存技術保持者だった故阪口キリヱさんの手ほどきを受けてから29年。「展示を通して感謝を表したい」と伝統的文様の一畳敷のほか、技法や素材を応用した独創性のある新作小物など約100点を出品している。
たつの市出身の見並さんは15歳の秋、赤穂市教育委員会が赤穂緞通の製法を後世に継承するために受講生を募集した織方技法講習会の1期生に応募した。新聞の募集記事に添えられていた緞通の写真を見て文様の美しさにひかれたという。中3だった前年に不登校となって高校に進学せず、将来への不安につぶれそうになっていた時期。抽選で定員から漏れたが、「自分にはこれしかない。絶対に織り手になります」と必死に訴え、講師を務める阪口さんの助手として講習への同席を特別に認められた。
織機に触れられるのは、その日の講習が終わった後。会場に居残って練習する見並さんに阪口さんは惜しみなく技術を伝え、5年間の講習が修了した以降も電車と自転車を乗り継いで自宅を訪ねてくる見並さんとの師弟関係が続いた。成人した見並さんは自宅に工房を開設。美術工芸織物を取り扱う京都の老舗企業と契約を結び、3〜4年目からは顧客から指名で注文が入るように。今では顧客注文だけでスケジュールが埋まる。
学びの意欲を取り戻して21歳で入学した通信制高校は最短の3年間で単位を取得して卒業した。結婚後に子育てに専念した時期や大病で入院したブランクもあったものの、「阪口さんの技を守ることが自分にできる恩返し」と研さんに努めてきた。周囲の後押しもあり、「いつかは個展を開くのが夢」と話していた念願が今回実現した。
展示テーマは「新しい緞通のかたち」。「蟹牡丹」「利剣」など古緞通の文様を再現した一畳敷に加え、個展に向けて創作した円形やエンブレム型の小品が目を引く。緞通を赤穂雲火焼や木工品と組み合わせたオリジナル小物、リングやネックレスといったアクセサリーも。「さまざまな場面で『赤穂緞通のある暮らし』を提案したい」(見並さん)と創意工夫あふれる展示となっている。一部非売品を除いて販売し、予約も受け付ける。
「私は赤穂緞通に出会ったおかげで生きる意味を見つけられました」と見並さん。「古き良き伝統を守りながら、新しい形を求めて試行錯誤を重ねた『私らしい』作品を見ていただければ」と話している。
11月23日(月・祝)まで午前9時〜午後4時。火曜休館。館内で使える500円金券(小・中学生、身障者200円)を購入して入館できる。会場でアンケートに答えた来場者に抽選で3人にミニ緞通をプレゼント。11月22日(日)午後2時からプロ和太鼓奏者の内海いっこうさんとの共演で18歳から続けている和楽器演奏を披露する。Tel56・9933。
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掲載紙面(PDF):
2020年11月14日号(2392号) 1面 (4,339,148byte)
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