幻の「藤緞通」復元 糸作りから自ら 丹後・上世屋で技術学ぶ
2023年10月21日
明治時代に藤の繊維で織られ、兵庫県品評会で1等賞に輝きながら現存が確認されていない「藤緞通」を赤穂緞通作家の見並なおこさん(47)=上郡町高山=が推定復元した。
自ら山で採ってきた藤蔓から紡いだ糸を草木染めして織り上げた労作。11月18日(土)から赤穂市立歴史博物館で開催される特別展「児島なか生誕200年記念赤穂緞通展」で展示する。
同館発行の図録によると、明治21年(1888)の「兵庫県品評会」に赤穂郡新濱村の早川宗助が「藤織緞通」を出品して1等賞を受賞したとの記録があるという。早川は、赤穂緞通を考案した児島なか(1823―1903)から緞通製作の技術を教わり緞通工場を創設した人物で、天蚕で織った製品が天皇の御召列車の敷物に採用されるなど高い技術を誇った。同館学芸員の木曽こころ係長によれば、麻を素材にした敷物は堺で盛んに織られたが、藤のじゅうたんは他に例がなく、最近の研究で早川が海外向けの輸出品として商品開発したことが判明したものの「実物が確認されたことはなく、実像はわかっていない」という。
以前に図録を読んで以降、藤緞通に興味を持ち続けていた見並さん。京都・丹後地方で藤織りの技法が伝承されていることを知り、昨冬現地を訪ねた。当初は藤から作った糸を譲ってもらうつもりだったが、山に分け入って伐ってきた蔓の皮をはいでほぐし、いくつもの工程を経てようやく糸が出来上がること、糸作りの過程で出る「オクソ」と呼ぶ繊維くずも捨てずに集めて活用していることを聞かされ、「安易に『分けてください』なんて言ってはいけない」と考えを改めた。
「それならば、自分で糸からつくろう」と一念発起。コロナ禍で中断していた「丹後藤織り保存会」主催の講習会が4年ぶりに再開される巡り合わせにも恵まれ、保存会長の坂根博子さん(65)に弟子入りできた。
講習会は今年5月から11月まで宮津市上世屋の伝承交流館で全6回開かれ、「藤伐り」から「機織り」まで藤織りの全工程を学ぶ。見並さんは初回の後、さっそく自宅近くにある知人の山で藤蔓を採取。教わった手順に則って糸作りにチャレンジし、まずはオクソをつなぎ合わせた糸で10センチ四角の小さな緞通を織ってみた。普段扱っている綿糸よりも固く、糸をはせるのも筋摘みも苦労した。感覚をつかんだ上で、今度は良質な藤糸で30センチ四角の作品を製作。藍や青に草木染めした糸を織り込み、師匠の坂根さんの工房から見える天橋立の風景をイメージした紋様に仕上げた。
藤織りは古来より日本各地で行われたが、国内に木綿が普及したのに伴って途絶えていった。唯一、制作技術が受け継がれ続けているのが上世屋地区で、1983年に文化庁が「記録作成の措置を講ずべき無形の民俗文化財」に選択。その2年後に第1回藤織り講習会が開かれた。現在は「丹後の藤織り」として京都府無形民俗文化財の指定を受け、保存会が伝承活動に努めている。
坂根さんは「見並さんが自分で山で採ってきた藤蔓を持ってきたのを見て驚きました。ここまで熱心な受講生はなかなかいない」と感心。これまで35回開いた講習会の受講生計約500人のうち、藤織りの全工程をマスターして実践しているのは「10名前後」といい、「藤織りの赤穂緞通が復活すれば、すばらしいこと。ぜひ頑張って伝承してほしい」と期待をかける。
木曽係長は「藤緞通は文献に『藤皮製緞通』とも記載されており、早川も藤の皮からつくった糸を用いた可能性が高い。幻の藤緞通の復元に大きく近づいたと言えるのでは」と話す。見並さんは「135年前に早川さんがつくっていた藤緞通を再現するのが夢。さらに技を磨いて後世に伝えたい」と意気込んでいる。
掲載紙面(PDF):
2023年10月21日号(2526号) 1面 (8,025,800byte)
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「藤緞通」を推定復元した見並なおこさん。手前にあるのが原材料の藤蔓と藤皮を紡いだ糸
自ら山で採ってきた藤蔓から紡いだ糸を草木染めして織り上げた労作。11月18日(土)から赤穂市立歴史博物館で開催される特別展「児島なか生誕200年記念赤穂緞通展」で展示する。
同館発行の図録によると、明治21年(1888)の「兵庫県品評会」に赤穂郡新濱村の早川宗助が「藤織緞通」を出品して1等賞を受賞したとの記録があるという。早川は、赤穂緞通を考案した児島なか(1823―1903)から緞通製作の技術を教わり緞通工場を創設した人物で、天蚕で織った製品が天皇の御召列車の敷物に採用されるなど高い技術を誇った。同館学芸員の木曽こころ係長によれば、麻を素材にした敷物は堺で盛んに織られたが、藤のじゅうたんは他に例がなく、最近の研究で早川が海外向けの輸出品として商品開発したことが判明したものの「実物が確認されたことはなく、実像はわかっていない」という。
以前に図録を読んで以降、藤緞通に興味を持ち続けていた見並さん。京都・丹後地方で藤織りの技法が伝承されていることを知り、昨冬現地を訪ねた。当初は藤から作った糸を譲ってもらうつもりだったが、山に分け入って伐ってきた蔓の皮をはいでほぐし、いくつもの工程を経てようやく糸が出来上がること、糸作りの過程で出る「オクソ」と呼ぶ繊維くずも捨てずに集めて活用していることを聞かされ、「安易に『分けてください』なんて言ってはいけない」と考えを改めた。
「それならば、自分で糸からつくろう」と一念発起。コロナ禍で中断していた「丹後藤織り保存会」主催の講習会が4年ぶりに再開される巡り合わせにも恵まれ、保存会長の坂根博子さん(65)に弟子入りできた。
講習会は今年5月から11月まで宮津市上世屋の伝承交流館で全6回開かれ、「藤伐り」から「機織り」まで藤織りの全工程を学ぶ。見並さんは初回の後、さっそく自宅近くにある知人の山で藤蔓を採取。教わった手順に則って糸作りにチャレンジし、まずはオクソをつなぎ合わせた糸で10センチ四角の小さな緞通を織ってみた。普段扱っている綿糸よりも固く、糸をはせるのも筋摘みも苦労した。感覚をつかんだ上で、今度は良質な藤糸で30センチ四角の作品を製作。藍や青に草木染めした糸を織り込み、師匠の坂根さんの工房から見える天橋立の風景をイメージした紋様に仕上げた。
藤織りは古来より日本各地で行われたが、国内に木綿が普及したのに伴って途絶えていった。唯一、制作技術が受け継がれ続けているのが上世屋地区で、1983年に文化庁が「記録作成の措置を講ずべき無形の民俗文化財」に選択。その2年後に第1回藤織り講習会が開かれた。現在は「丹後の藤織り」として京都府無形民俗文化財の指定を受け、保存会が伝承活動に努めている。
坂根さんは「見並さんが自分で山で採ってきた藤蔓を持ってきたのを見て驚きました。ここまで熱心な受講生はなかなかいない」と感心。これまで35回開いた講習会の受講生計約500人のうち、藤織りの全工程をマスターして実践しているのは「10名前後」といい、「藤織りの赤穂緞通が復活すれば、すばらしいこと。ぜひ頑張って伝承してほしい」と期待をかける。
木曽係長は「藤緞通は文献に『藤皮製緞通』とも記載されており、早川も藤の皮からつくった糸を用いた可能性が高い。幻の藤緞通の復元に大きく近づいたと言えるのでは」と話す。見並さんは「135年前に早川さんがつくっていた藤緞通を再現するのが夢。さらに技を磨いて後世に伝えたい」と意気込んでいる。
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