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瀬戸の風に誘われて〜岩渕徹さん〜後編

 2014年05月03日 
3年連続の金賞に輝いた昨年の全国新酒鑑評会で奥藤利文社長(右)と
 日本酒を醸造する「蔵人」として、一年の半分を坂越で過ごす岩渕徹さん(42)=東京都板橋区=のインタビュー後編です。

 * * *

 でも、社長と二人で造るようになって3年目はね、劇的に変わったと思ってるんですよ。慣れたというのもあるし、麹の造り方がちょっと安定してきたというのもあるし。それまでの失敗を踏まえてというのがあったんで。当時の酒を未開封のまま冷蔵保存してくれている方がいて、飲み比べたことがあるんですけど、3年目から、がらっと変わってくるんですよ。びっくりしました。

 もともとはスポーツライターになりたくて、大学を卒業してから編集プロダクションで働いてたんですが、27歳のときに実家の酒屋を継ぐことになりまして。それまではビールとワインしか飲んだことがなかったけど、試飲会や勉強会に行くうちに「日本酒が一番うまいな。面白いな」と。

 前の仕事のときに編集者から、「わかってないまま中途半端に書くんじゃねえ」って怒られたことを思い出したんです。だったら、自分で酒造りを体験した上でお客さんに売りたいと。試飲会でおいしいと気に入った酒蔵の社長にお願いして入れてもらったのが久留米の蔵です。

 酒造りは春に仕込みが終わると、秋まで仕事がありません。その間は、今もそうなんですけど、東京に戻ってアルバイトをしています。久留米で2年体験して、次はどうしようかと悩んでいたとき、アルバイト先の居酒屋の社長から「君、いくつだっけ?」と尋ねられました。32歳です、って答えると、「そうか、君はあと30回しかお酒造れないんだね」って言われたんです。酒を売る仕事は60過ぎても出来るけど、作る方は体力があるうちしか出来ない。あの一言で吹っ切れました。

 こっち(坂越)にいる間は、酒蔵の2階の6畳間に住み込んでます。酒造りで一番気をつかうのは温度管理です。下がりすぎても上がりすぎてもだめ。ピンポイントの幅があるんですよ。夜中の3時くらいに起きて見に行くときが辛い。大吟醸や吟醸の麹を造るときは2〜3時間くらいしか寝られない日が続きます。

 ここ3年続けて(全国新酒鑑評会で)金賞をいただいてますけど、それを目標に造ってはいません。自分が納得できるお酒を造って、飲んだお客さんが「おいしい」って言ってくれる瞬間。それがすべて。そこが僕にとっては一番大切なんです。目標は大吟醸だけでなく、仕込んだすべてで「うまい」と思える酒を造ることです。達成することの難しい目標だけど、不可能ではないと思って追い求めたい。

 よく人から、自由人だねって言われます。そういう環境を与えてくれている社長やアルバイト先の社長、両親にすごく感謝してます。ありがたいなと思ってます。
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関連サイト:
瀬戸の風に誘われて〜岩渕徹さん〜前編


掲載紙面(PDF):
2014年5月3日(2086号) 4面 (8,455,327byte)
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