《市民病院医療事故多発》科長が治療実績の不正付け替え提案
2024年11月16日
赤穂市民病院が2019年7月に男性脳外科医(46)を採用した際、別の医師が担当した治療実績を同医師が実施したように付け替える不正を脳神経外科の科長(60)が提案していたことがわかった。
実績を水増しして血管内治療専門医の受験資格を与える目的で、背景には慢性的な医師不足の中、不正もいとわず医師を確保しようとした病院の姿勢があるとみられる。同病院の脳神経外科手術では同医師の採用後に医療事故が多発しており、病院が同医師に手術経験を積ませようとしたことが医療事故を生じさせた要因の一つになったのではとの疑いもある。
関係者によると、男性脳外科医は19年春ごろ、当時勤務していた京都府内の医療機関からの転職を求めて赤穂市民病院の中途採用に応募。院長や科長との面談では手術への意欲のほか、カテーテルを用いた血管内治療(IVR)の専門医資格の取得を熱望しているとアピールしたという。
* * *
「出張して治療に参加したことに…」
科長は面談後の19年5月20日に同医師にメールを送信。直近5年間に同科で行ったIVR症例が約60例あるとした上で、「これらの症例を私の指導下でM先生(=男性脳外科医)が術者として実施した、あるいは第1助手として施術に参加したという扱いで、血管内治療専門資格受験に必要な症例数に加えてもらう案はいかがでしょうか」「受験条件に必要な100症例数は余裕で超えると思います」などと症例実績の付け替えを提案した。
さらに、「私と以前から交流があって、本院でIVR症例の実施がある時々に、滋賀から本院に出張して来て治療に参加していたとすれば不自然はない」「受験願書提出に際して各受験者の個々の提示症例を、認定委員会の方はそこまで詳しい実情まで監査していません」などと具体的な手口まで指南した。
* * *
男性脳外科医が自らメールを証拠提出
このメールが送られた翌々月、同医師は赤穂市民病院へ転職。その後に関わった手術で8件の医療事故が起きた。その中にはカテーテルを使った血管内治療も含まれ、院長は20年3月に手術禁止を命令。同医師は21年3月に専門医試験の受験を学会に出願したが、学会から求められた赤穂市民病院における手術経験の証明書を期限までに提出できず受験を断念。同年8月に依願退職した。
同医師は昨年10月、「(科長が証明書への署名を)拒否したことが原因で受験資格を喪失した」「不正申請などしていない」として科長を提訴し、証拠としてメールを提出した。
一方、訴えられた科長はメールを送ったことは認め、「(同医師が)受験資格を喪失したのは、証明書が入手できなかったことに原因があるのではなく、(同医師が)虚偽の症例報告リストを提出して受験申請したことが原因」と反論。現在も係争が続いている。
* * *
「M先生が出来るところまで執刀して」
赤穂市民病院の脳神経外科をめぐっては、2008年に常勤医3人のうち2人が退職し、新たに医師が補充されるまで脳疾患の救急受け入れを1年半にわたって休止したことがある。その後は3人体制が復活したが、16年8月に1人が退職。夜間の急患にも対応できる体制の維持に無理が生じていた。
医療関係者の話では、脳神経外科が扱う症例は手術や入院、定期的な通院を要するケースが多く、「トータルで高い診療報酬が得られ、言い方は悪いが病院にとって『ドル箱』の診療科」だという。夜間の救急受け入れを断ることは、「病院経営の視点で言えば『売上』を逃したことになる」。慢性的な赤字に陥っている赤穂市民病院にとって、夜間の救急受け入れ体制を維持するための「3人目の脳外科医」を補充することは喫緊の課題だったといえる。
科長が男性医師に送ったメールには、科長と同僚医師が主治医となる患者の手術についても「M先生が出来るところまで執刀してもらいたい」などとあり、男性医師に手術経験を積ませようと考えていた様子がうかがえる。
* * *
着任後に手術件数急増
脳神経外科の患者数の推移を見てみると、男性医師を採用する前の18年度に43件だった年間手術件数は19年度に100件に急増。医療事故が度重なり手術禁止命令を受けた男性医師が21年8月に依願退職すると手術件数は激減した。この間の外来患者数にそれほど大きな増減はなく、手術件数の異様な突出が目立つ。
こうした問題に関連し、11月19日(火)にNHK「クローズアップ現代」が『“リピーター医師”の衝撃 病院で一体何が?」(午後7時半)と題して放送を予定している。
掲載紙面(PDF):
2024年11月16日号(2575号) 1面 (7,154,093byte)
(PDFファイルを閲覧するにはこちらからAdobe Readerを入手してください。)
実績を水増しして血管内治療専門医の受験資格を与える目的で、背景には慢性的な医師不足の中、不正もいとわず医師を確保しようとした病院の姿勢があるとみられる。同病院の脳神経外科手術では同医師の採用後に医療事故が多発しており、病院が同医師に手術経験を積ませようとしたことが医療事故を生じさせた要因の一つになったのではとの疑いもある。
関係者によると、男性脳外科医は19年春ごろ、当時勤務していた京都府内の医療機関からの転職を求めて赤穂市民病院の中途採用に応募。院長や科長との面談では手術への意欲のほか、カテーテルを用いた血管内治療(IVR)の専門医資格の取得を熱望しているとアピールしたという。
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「出張して治療に参加したことに…」
科長は面談後の19年5月20日に同医師にメールを送信。直近5年間に同科で行ったIVR症例が約60例あるとした上で、「これらの症例を私の指導下でM先生(=男性脳外科医)が術者として実施した、あるいは第1助手として施術に参加したという扱いで、血管内治療専門資格受験に必要な症例数に加えてもらう案はいかがでしょうか」「受験条件に必要な100症例数は余裕で超えると思います」などと症例実績の付け替えを提案した。
さらに、「私と以前から交流があって、本院でIVR症例の実施がある時々に、滋賀から本院に出張して来て治療に参加していたとすれば不自然はない」「受験願書提出に際して各受験者の個々の提示症例を、認定委員会の方はそこまで詳しい実情まで監査していません」などと具体的な手口まで指南した。
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男性脳外科医が自らメールを証拠提出
このメールが送られた翌々月、同医師は赤穂市民病院へ転職。その後に関わった手術で8件の医療事故が起きた。その中にはカテーテルを使った血管内治療も含まれ、院長は20年3月に手術禁止を命令。同医師は21年3月に専門医試験の受験を学会に出願したが、学会から求められた赤穂市民病院における手術経験の証明書を期限までに提出できず受験を断念。同年8月に依願退職した。
同医師は昨年10月、「(科長が証明書への署名を)拒否したことが原因で受験資格を喪失した」「不正申請などしていない」として科長を提訴し、証拠としてメールを提出した。
一方、訴えられた科長はメールを送ったことは認め、「(同医師が)受験資格を喪失したのは、証明書が入手できなかったことに原因があるのではなく、(同医師が)虚偽の症例報告リストを提出して受験申請したことが原因」と反論。現在も係争が続いている。
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「M先生が出来るところまで執刀して」
赤穂市民病院の脳神経外科をめぐっては、2008年に常勤医3人のうち2人が退職し、新たに医師が補充されるまで脳疾患の救急受け入れを1年半にわたって休止したことがある。その後は3人体制が復活したが、16年8月に1人が退職。夜間の急患にも対応できる体制の維持に無理が生じていた。
医療関係者の話では、脳神経外科が扱う症例は手術や入院、定期的な通院を要するケースが多く、「トータルで高い診療報酬が得られ、言い方は悪いが病院にとって『ドル箱』の診療科」だという。夜間の救急受け入れを断ることは、「病院経営の視点で言えば『売上』を逃したことになる」。慢性的な赤字に陥っている赤穂市民病院にとって、夜間の救急受け入れ体制を維持するための「3人目の脳外科医」を補充することは喫緊の課題だったといえる。
科長が男性医師に送ったメールには、科長と同僚医師が主治医となる患者の手術についても「M先生が出来るところまで執刀してもらいたい」などとあり、男性医師に手術経験を積ませようと考えていた様子がうかがえる。
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着任後に手術件数急増
脳神経外科の患者数の推移を見てみると、男性医師を採用する前の18年度に43件だった年間手術件数は19年度に100件に急増。医療事故が度重なり手術禁止命令を受けた男性医師が21年8月に依願退職すると手術件数は激減した。この間の外来患者数にそれほど大きな増減はなく、手術件数の異様な突出が目立つ。
こうした問題に関連し、11月19日(火)にNHK「クローズアップ現代」が『“リピーター医師”の衝撃 病院で一体何が?」(午後7時半)と題して放送を予定している。
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コメント
そんなことしたら、経験のない医者が患者を手術していくことになりますね。それって医療事故につながるのでは?
市民病院で医療事故が多発したのは偶然ではなく必然と思いますので、私はもう通院をやめます。
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投稿:市民病院にかかるのはやめます 2024年11月16日コメントを書く