ユニチカ坂越が所蔵「化学遺産」
2012年04月07日
「化学遺産」に認定されたユニチカ坂越事業所のビニロン関連資料
ビニロンは、京都帝大(現京都大)の桜田一郎教授を中心とする研究グループが昭和14年に「合成一号」の名称で基礎研究結果を発表。後にユニチカとなる大日本紡績をはじめ複数の国内企業が工業化を目指したが、第二次世界大戦で中断を余儀なくされた。戦後になり、初期段階から人材と資金を支援してきた大日本紡績の坂越工場に桜田教授の助手だった川上博氏ら全技術陣が移籍。25年10月、同社が他に先駆けて製造設備を稼働させた。
化学遺産に認められたのは、川上氏らが昭和22年9月に京大化学研究所(大阪府高槻市)で初めて行った合成一号の操業結果、工業化を進展させるために同社が出資していた「日本ビニロン株式会社」の実証データなど研究記録153点。当時の研究者たちが残した手書きのレポート群で、「原液」「紡糸」「後処理」など工程ごとにねずみ色のファイルで仕分けられている。また、30年代のものとみられる製品サンプル5点も認定。調査に当たった日本化学会フェローの田島慶三氏(63)によれば、ビニロン工業化の過程をこれだけ詳細に示す資料は前例がなく、「記録が不明だった空白期間を埋める貴重な発見」だという。
同社坂越事業所によると、これらの資料は昨年8月、工場敷地内で最も高い地上約12メートルの位置にある旧貯綿室から見つかった。工場が浸水した昭和51年水害の教訓を得て、より安全な保管場所へ移していたことが元社員らへの聞き取りでわかった。
生前の川上氏をよく知る同社OBの牟禮宗弘さん(68)=坂越=は「温厚な方だったが、研究に懸ける情熱は人一倍。合成繊維についての夢をいつも熱く語っていた。化学遺産認定は、川上さんをはじめビニロンに関わった人たちが一番喜んでいると思う」。
国産ビニロンは昭和40年代半ばをピークに生産量を減らし、後発のポリエステルに主役の座を譲ったが、現在もアスベスト代替素材など産業用繊維として年間3万トン台をキープ。坂越事業所では年間約1万トンを生産し、培われた技術は液晶ディスプレイ用偏光フィルムや食品包装資材などに活かされているという。大澤所長は「戦中戦後の混乱期の中で純国産の技術を生み出した先人たちの偉大さを改めて感じる。資料は今後も大切に保管したい」と話している。
「化学遺産」は貴重な化学関連の歴史資料を後世に伝えようと、「日本化学会」が2年前から認定を始めた。▽世界で初めてアドレナリンの結晶化に成功した上中啓三の実験ノート▽うま味調味料の工業化につながった「具留多味酸」(グルタミン酸)の試料―など、これまでに計10件。今回の認定で▽鈴木梅太郎が約100年前に発見したビタミンB1に関する資料▽日本初の民間セメント会社が作った「徳利窯」―など7件が加わった。
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掲載紙面(PDF):
2012年4月7日(1986号) 1面 (9,634,868byte)
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