赤穂の昔話・第3話「天神岩」
2019年07月06日
菅原道真公が九州の太宰府の権師として左遷される時、小さい舟で難波(大阪)を発ち、潮待ちのため坂越に寄られました。庶民のための政治を行った道真公が左遷されることを悲しく思っていた坂越の人々は、公の舟が港に着くと、誰かれなく、
「道真公が来られたぞう」
「ほんまかあ、ほんまに来られたんか」
「どこや、どこや」
と、いつの間にか、ワイワイ叫びながら、坂越の浜は足の踏み場もないほどの人だかりになりました。
道真公も驚きましたが、思わぬ歓迎に心をよくし、しばらく坂越に滞在することになりました。
ときには道真公も浜の岩に腰をおろし、美しい海を眺めながら、集まった人々に、むかし讃岐国(香川県)の国司をしていた時に見た塩づくりの話や、京の都の話などをして、坂越の人と親しくなりました。
いよいよ出発されることになりました。そのころ、坂越の山には梅の花がいっぱい咲いておりました。公はこれを眺めながら、京のお屋敷の梅を思い出されたのでしょうか、
こち吹かば 匂ひおこせよ 梅の花
あるじなしとて 春な忘れそ
と、詠まれ、人々と別れを惜しみながら西に向かって港をあとにされました。
その後、坂越の人はそのことを忘れることができず、道真公が腰をかけた岩を「天神岩」といって大切に守ってきました。また、公が泊まったところを「大泊」、「洞龍(逗留)」と呼ぶようになりました。(赤穂市教育委員会刊『赤穂の昔話 第二集』・「天神岩」より)=切り絵・村杉創夢
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掲載紙面(PDF):
2019年7月6日号(2331号) 3面 (10,906,640byte)
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