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《市民病院医療事故多発》患者妻が心境「防げる命守って」

 2022年10月29日 
 2019年9月に赤穂市民病院の脳神経外科手術で医療事故に遭った80代男性患者の妻が赤穂民報の取材に応じ、事故前後の経緯や現在の心境などを語った。同病院が明らかにしている一連の医療事故8件で最初の症例にあたる。


 * * *

――赤穂市民病院を受診したきっかけを教えてください。

 「最初は、なんか主人の歩き方がおかしくて、かかりつけの先生に紹介状を書いてもらって2019年の8月に受診しました。そしたら正常圧水頭症と診断されて。検査の後、9月17日に入院して18日に手術してもらいました」


――どんな手術だったのですか。

 「頭にチューブを入れる『VPシャント』という手術です」


――手術後にどのような後遺症が出たのでしょうか。

 「嚥下障害です。手術後の食事でおかゆを一口食べさせようとしたら、むせて飲み込めませんでした。看護師さんが『こちらでやりますから家族の方は食べさせないでください』と言われて、看護師さんがやってくれたのですが、それでも全然飲み込めない。お茶を飲ませたら余計にむせて。常に吸引が必要でした」


――事故後に主治医が書いた医療事故報告書には「嚥下障害は徐々に改善し食事は可能なレベルとなった」と書かれています。

 「固形物は軟食やったら、ゆっくりですが食べられますが、水分は全然だめです。お味噌汁もお茶もとろみをつけないとだめ。あと、麺類やおもちも食べることができません」

 「手術を受けるまでは、杖を使って休みながらですが、毎日畑を見に行って往復1キロぐらいは自分の足で歩いてました。一人で入浴も出来て、2階で寝起きしていました。でも、手術後の嚥下障害で10日間くらい絶食して、ほとんど寝たきりの状態が続いた間に足が弱ってしまいました。今年3月に鎖骨を骨折したのを機に押し車を使って部屋の中、トイレ、洗面所のみ歩ける程度で、通院時は車椅子です」


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「杖なしで帰れる」
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――術前には主治医からどのような説明を受けていましたか。

 「先生からは『手術すれば1週間で杖なしで帰れる。走って帰れる』と言われました。すごい自信満々で、この先生、まだ来て2か月ちょっとやけど、『脳神経外科部長』の肩書きやし、経験豊富な先生なんやなと思いました。主人は『良うなって帰れるから、杖を持って行かない』と話すくらい、とても期待してました。やのに、こんなことになってね。手術前に病院からもらった紙に、なんかあったら全力で対処します、みたいなことが書いてあって、それも言いましたけど、『これは手術でなったんと違う』言われてね」


――手術後はどのような処置を受けましたか。

 「リハビリの方が、ベッドの高さや首の位置とか、どんな姿勢やったら食べやすいか探してくれて、写真に撮って病室に貼ってくれました。それで看護師さんが食べさせてくれました。リハビリや看護師さんには本当に感謝しています」

 「手術から2か月くらいして、先生から胃瘻にして療養型の病床がある病院に転院するよう勧められましたが、もうちょっとリハビリをしてくださいとお願いしました。そしたら『今の病棟にはいつまでも置いておけない』ということで、手術から3か月後に包括ケア緩和病棟に移りました。でも、リハビリを特別にしてくれるようでもなく、先生が早く自分の手から離したがっているような感じも受けたんで、自宅に連れて帰りました。嚥下障害を背負って、日々も大変な苦労を伴っています」


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口元に人差し指
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――その後は脳神経外科を受診していないのですか。

 「チューブの調整とレントゲンで2回受診しました。その後も何回か予約を入れましたけど、その度に『先生はお休みです。また1か月後に予約してください』とキャンセルされました。『先生、どうかされたんですか』と看護師さんに聞いても『私たちも知らないんです。全然会わないんです』と。結局、そのまま退職されました」

 「その後は別の先生が診てくれるようになりました。最後に診てもらったのは去年の12月3日です。先生の横についてる事務の人が『病院から何か電話がありましたか』と言うんです。『いえ、何も電話はないです』と言って、先生の方を見たら、事務の人に向かってこうやって(口元に人差し指を当てる仕草)してたんです。『何も言うな』ということなのかなと思いました。『何かおかしいな』と思いましたが、そしたら、次々と新聞に医療事故のことが載って、『やっぱり』と思いました」


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こちらから電話
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――医療事故について、病院から説明はありましたか。

 「病院に言うてみても治るわけじゃないんで、こちらから何か言うつもりはなかったんです。主人にも『自分が信用して手術してもろうた先生が「手術とは関係ない」言うてるから信用せんと。人を信用できんようになったら、自分も相手も2人不幸な人ができてしまうからね、そんなこと思わんと、一生懸命リハビリして、食べられるようになるようにがんばろ』と言うとったんです」

 「でも、やっぱり言っておきたいことがあったんで、(今年の)8月の終わりごろにこちらから病院に電話して、9月8日に面会しました。(診療科長の)先生と事務の人と看護師さんですか、対応してくれました」


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「苦労忘れんとって」
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――何を言っておきたかったのですか。

 「主人はずっと食べたいものも食べられず、暑い日でも冷たいお茶を一口飲ませてあげたいけど、それができない。いつもとろみのついたぬるいお茶しかのめない。本人も辛いし、料理を作る私も辛い。訪ねてくる親族も、主人に気をつかって食べられそうなプリンやゼリー等を差し入れてくれます。患者は一人ですけど、周りもともに苦労を味わっていく。それを忘れんとってほしい。それと、医療事故が発生しても科内や院内でかばいあったり、隠しあったりすることで次の事故を生むことになる。医療者一人一人が情報を共有し防げるいのちは守ってほしい。それが言いたくて病院に行きました」


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安全な医療を願う
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――赤穂市民病院に望むことはありますか。

 「医療事故のことは新聞記事で初めてはっきり知りました。病気については手術前の状態までもの快復は望めませんでしたが、残念な結果になられた方もいらっしゃる中で主人は幸いいのちはつないだので、本人にも良くなる力がなかったのだろうし、誰の責任でもないと思っております。医療の世界はきびしいですが、院是の『恕』のごとく互いのおもいやりの中で安心、安全な医療の提供を願う一市民であり、今後の医療向上に期待しております」
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掲載紙面(PDF):
2022年10月29日号(2481号) 1面 (7,751,332byte)
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