介護施設に“教室”再現「おとなの学校」
2012年04月28日
伯鳳会プラザが導入した「おとなの学校」
「キーンコーンカーンコーン」とチャイムが鳴った後、「姿勢を正して。気をつけ、礼!」と日直が号令をかける。小・中学校でよく見られる光景だが、“生徒”は皆、デイサービスに通う高齢者だ。
“授業”は一コマ30分間で午前と午後に2コマずつ。朝礼では黒板の上に掲げられた校訓を唱和し、校歌も斉唱する。窓辺に張り出した習字作品、皆勤出席者の名札なども学び舎を思い起こさせる。
「みなさん、おはようございます。きょうも楽しく勉強しましょう」。胸に校章エンブレムを縫い付けたブレザー姿の“教師”が明るく呼び掛ける。7人いる教師は全員が「学習療法士」の研修を修了した施設スタッフ。授業内容を相談し、教材も手作りで用意する。
本紙が取材に訪れたときは「理科」の授業が行われていた。ハス、タマネギなど花の写真を見て、植物の名前を答える内容。「赤穂城の堀に咲いとって、きれいやった」「若い時分に畑で作ったよ」。自然とお年寄りの口から昔を思い出す言葉が出る。こうした回想は認知症の予防や抑制にも役立つと言われる。
科目は国算理社のほか図工、音楽など10科目。従来も貼り絵やカラオケなどをレクリエーションとして行っていたが、進め方を授業風にアレンジしたことで、より積極的に参加してもらえるようになったという。“校長”役のデイケアリーダー、室井麻里さん(31)によれば、「できるだけ利用者の発言を引き出す工夫」がポイントなのだという。
「おとなの学校」は熊本県内の介護施設で平成17年に始まった。“学び”を軸に利用者の生活意欲、自立意識を高めることが目的。子どもの頃や青春時代に経験した「懐かしい学校の空間」が五感に刺激を与え、時間割が介護サービスに規則正しいリズムを生む。その効果に着目した伯鳳会が今年2月、関西地区の施設では初めて導入した。
キーワードは「賞賛と感謝」。授業中の質問に正解したり、発表したりするたびに「おめでとう」「ありがとう」との言葉とともに拍手が送られる。小さな成功体験の積み重ねが、自信とやる気につながり、最初は無表情だった人にも笑顔が見られるようになった。
自信とやる気は授業以外にも波及した。昼食やおやつの時間におしぼり、お茶を配る利用者が現れるように。これまで世話を「される側」だった人が「する側」になり、「誰かの役に立つこと」が、また新たな意欲と元気になっているという。「自分で出来ることを“奪ってしまう”のではなく、“増やす”お手伝いをするのが私たちスタッフの役割です」と室井さんは語る。
現在の“生徒数”は約90人。今後は半年ごとに成果発表会を行い、“通信簿”も渡す予定という。週3日通所している加里屋中洲の神吉正一さん(90)は「この年になって勉強できるとは思わなんだ。“学校”がある日が楽しみや」。
「表情や会話が豊かになっていく変化を実感できるのがうれしい」とスタッフも手応えを感じている。「ここは利用者とスタッフが一緒に成長できる生涯学習の場なんです」と室井さんが胸を張った。
<前の記事 |
掲載紙面(PDF):
2012年4月28日(1989号) 1面 (7,216,921byte)
(PDFファイルを閲覧するにはこちらからAdobe Readerを入手してください。)
「産廃処分場建設反対」住民団体がアピール行進 [ 社会 ] 2024年02月21日大規模災害想定しボランティアセンター開設訓練 綿栽培通して「人間サイズのまちづくり」兵庫県から奨励賞 赤穂署管内の刑法犯「乗り物盗」が3割 救急出動 前年から12%増 2年連続過去最多 [ 社会 ] 2024年02月17日元市民病院脳外科医 転職先でも医療トラブル 透析治療せず患者死亡か [ 社会 ] 2024年02月10日断水続く石川県穴水町へ給水車を災害派遣 [ 社会 ] 2024年02月08日赤穂署で「術科始め式」署員ら決意新た [ 社会 ] 2024年02月07日京アニ放火殺人事件の判決受け遺族が心境〈後編〉「心の奥に氷の塊がずっと」 京アニ放火殺人事件の判決受け遺族が心境〈前編〉「どんな判決が出ても、息子は帰ってこない」 市民病院が経営強化案「2039年度の黒字化を目標」 [ 社会 ] 2024年01月31日能登地震被災地で医療支援 赤穂中央病院AMAT [ 社会 ] 2024年01月27日赤穂市議会の定数削減方針まとまる 1減の17へ [ 社会 ] 2024年01月27日市民病院PET−CT売却 3300万円で落札 [ 社会 ] 2024年01月27日料金所の強盗想定、山陽道で防犯訓練 [ 社会 ] 2024年01月24日
コメントを書く