「ひょんの実」で赤穂緞通
2013年07月20日
「ひょんの実」=手前=を染料に使った赤穂緞通に取り組む=右から=根来節子さん、小田中久良子さん、田川芳弘さん。
タンニンを含む「ひょんの実」は染料に適することが古くから知られるが、母木自体の数がそう多くなく希少だという。完成間近となった試作品は、落ち着きと気品を兼ね備えた色合い。郷土の伝統工芸に新たな特色をもたらしそうだ。
「ひょんの実」はマンサク科の常緑樹イスノキ(蚊母樹)にしばしば見られる虫こぶ。その穴を吹くと「ひょん」という音が鳴ることから、イスノキは「ひょんの木」とも呼ばれる。哲学者・梅原猛氏はイスノキの古木がある坂越・大避神社を能楽研究で訪れた平成18年、祭神・秦河勝が政敵の迫害を逃れて坂越浦に流れ着いたときに乗っていたと伝えられる「うつぼ船」の形を実に重ね合わせ、「ひょんの実に似たるうつぼで流れ着き」と句を詠んだ。
一連の逸話に強い関心を持ったのが、古緞通のしみ抜きを手掛ける坂越の田川芳弘さん(66)。「ひょんの実」にひもを通したストラップを仲間と約1000個作り、3年前の新作能「河勝」赤穂公演で来場者に無料進呈した。受け取った人たちから「大きな災厄を避ける御守り」として喜ばれ、「これは、まちおこしに活用できるのでは」と着目。赤穂緞通の染料に役立てるアイデアを思いついた。
賛同した元就実短大教授の染色研究家、小田中久良子さん(79)=朝日町=が染色技法を伝授。「赤穂緞通 生産者の会」の根来節子さん(62)=古浜町=が自宅の工房で試作を引き受けた。田川さんは必要な原料を求めて東奔西走。神戸、京都、さらには九州からも情報を集めた。そして、樹皮を焼いた灰を陶芸の釉薬に使った佐賀県伊万里市に同県天然記念物の「早里のイスノキ」(推定樹齢200年)があることを知り、ミカン箱一杯分を譲り受けることができた。
草木染めは原料が同じでも媒染剤によって染め上がりの色が異なる。「ひょんの実」は、鉄で媒染すると渋い黒みのある薄茶色に、アルミを使えば明るい亜麻色へと綿糸を変化させた。根来さんはこれら2種類の糸を主に今年5月下旬から緞通織りを開始。伝統的な唐花文様を中央に大きく配した座布団大(約50センチ角)の作品が間もなく出来上がる。
「色素が繊維の中で生き続けるのが草木染め。緞通に姿を変えた『ひょんの実』の生命がとても輝いて見えます」と小田中さん。根来さんは「別の綿や媒染でも試してみたい」と創作意欲を口にする。イスノキを探して長崎県・対馬の山奥にまで分け入った田川さんは「多くの方の協力とつながりで、夢を形にしていただけた」と感謝。「次の目標は、地元で安定して原料を提供できるようにすること」と今後は植樹活動に本腰を入れる。
試作の緞通は8月2日(金)から4日(日)まで旧坂越浦会所である「しおかぜと赤穂緞通展」で展示される。
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2013年7月20日(2046号) 1面 (9,237,588byte)
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