瓦の下に「幻の陶土」雲火焼の完全復元目指す
2021年01月01日
大嶋黄谷子孫の靖彦さん(左)から提供された陶土で雲火焼の完全再現を目指す桃井香子さん(右)ら
父を継いで鋳物師だった黄谷は、1848年(嘉永元)から翌年にかけて赤穂に逗留した今戸焼の陶工、作根弁次郎(―1877)に陶技を学び、雲火焼を創出。明治10年の第1回内国勧業博覧会で発明の功績により花紋褒賞を受賞した。しかし、その陶法を弟子に伝授することなく84歳で、この世を去った。陶土を採取した場所にしても、博覧会出品票の控えに「池の内村字赤阪山」「赤穂町字ゴフラノ山」といった記載があるのみで詳しい位置はわからず、雲火焼は「幻のやきもの」とも呼ばれた。
陶土を同館に提供したのは黄谷の玄孫、大嶋靖彦さん(76)=加里屋=。大嶋さん宅は、かつて黄谷が窯を築いた場所のすぐそばにあり、「母屋の屋根には黄谷が使った土が敷いてあるが、絶対に口外してはならない」と代々伝承されてきたという。約50年前に母屋を建て替えた際、屋根瓦の下から「やや粘り気のある、きめの細かい土」が見つかり、大嶋さんは親族と相談して別の場所で保管。これまで言い伝えを守って誰にも話すことはなかったが、生誕200年を機に陶土の提供を申し出た。
雲火焼の再興に取り組んで40年になる同館オーナーの桃井香子さん(77)と長棟州彦さん(73)=塩屋=は赤穂市内で採取した土で試行錯誤を重ね、白い陶肌に炎と煙が乗り移ったような文様の再現に成功。「赤穂雲火焼」として1993年に兵庫県伝統的工芸品の指定を受けた。だが、長棟さんによれば、黄谷の作品に見られる「まるで象牙のような白の色合い」は、まだ出せていないという。
提供された陶土は軽トラック1台分(約350キロ)あり、細かく砕いてから水の中で撹拌して石や不純物を取り除くことで20キログラムほどの粘土を抽出できる見込み。長棟さんの息子で同館支配人の光亮さん(47)も加わって、この粘土を使って茶碗や陶板などをつくり、黄谷の生誕日(10月14日)にちなんで同館で今秋開催予定の企画展での出品を目指す。
「窯から取り出したときに、どのような色が出ているか楽しみ」と桃井さん。長棟さんは「焼きものは土が命。黄谷さんが扱った土で作品づくりに挑戦できるのは大きなロマンがある」と心を高ぶらせる。大嶋さんは「雲火焼の再興に役立ててもらえれば、きっと先祖も喜ぶはず」と泉下の黄谷に思いをはせた。。手前の水槽で粘土を抽出する。同右は大嶋黄谷作の手焙)
<前の記事 |
掲載紙面(PDF):
2021年1月1日号・第1部(2398号) 1面 (6,788,350byte)
(PDFファイルを閲覧するにはこちらからAdobe Readerを入手してください。)
「声楽の甲子園」初の2年連続県代表 [ 文化・歴史 ] 2022年09月26日「ひょうご五国」巡回展 赤高生が音声ガイド [ 文化・歴史 ] 2022年09月17日「赤穂緞通の魅力伝えたい」織り手志望の女性が絵本 [ 文化・歴史 ] 2022年09月09日絵手紙始めて3年 95歳初の作品展 [ 文化・歴史 ] 2022年09月05日逸話でひもとく史実の元禄赤穂事件 [ 文化・歴史 ] 2022年09月04日義士外伝の新作歌舞伎『荒川十太夫』10月に歌舞伎座 十州塩田の作業唄一堂 赤穂からも出演 [ 文化・歴史 ] 2022年09月02日市史編さん課長が語る元禄赤穂事件の逸話 詩吟体験教室の子どもたちが奉納吟詠 JR有年駅に埴輪の絵画 故堂本隆也さん遺作 [ 文化・歴史 ] 2022年08月13日市民文化祭 短歌会と俳句会の作品募集 日本遺産写真展 作品を公募 県展2022 3部門で3人入選 [ 文化・歴史 ] 2022年08月10日「角立てない」伝統の書体 播磨提灯 気持ちや思い自由に表現「デザイン書道」 [ 文化・歴史 ] 2022年08月04日
コメントを書く