赤穂の昔話・第28話「猫岩の狐」
2021年07月31日
切り絵・村杉創夢
岩の底には、人の腕ぐらいの鰻が住んでいるとか、河童が住んでいるとか、言われていました。その付近は、子どもたちの水遊びや魚とりによい場所で、毎日毎日集まって遊んでいました。
夏の日の午後のことです。猫岩の上に見たこともない女の人が、頭に白い布をかぶり、白い着物を着てうずくまり、異様な目つきで、じっと子どもたちの方を見ているのです。
「こらっ、おまはんだれなあ」
と、大きい子が声をかけると、その女の人はスーッと立ち上がりました。真っ白い花嫁衣裳の姿です。そして静かに猫岩の上を川に向かって歩き出しました。
「キャーッ、こっちへ来よんがなあ。はよう逃げえ」
子どもたちは着物をかかえて裸のまま逃げました。やっと堤防まで逃げ、後ろをふり向くと、猫岩の上にも川にも、白い着物の女の人の姿は見えません。子どもたちは、狐につままれたようで、ガタガタふるえています。
「またどっからか来るぞ」
と、あわてて着物を着て、家にとんで帰りました。
「川で遊びよったらなあ、猫岩に白い着物を着た女の人がおったんや。ほんまやで」
それを聞いたおじいさんが、「ああ、あの猫岩はなあ、昔から、鹿や狐が山から水飲みに下りてくる、獣道なんじゃ。みんながおったんで、狐が女に化けて水を飲みに来たんやろ。ほんまに、いつまでも遊んどったらだまされて、山に連れて行かれるぞ。はよう帰らんとあかん、あかん」と話しました。
それからというものは、猫岩に近づくものがいなくなり、子どもたちも早く家に帰るようになりました。(赤穂市教育委員会刊『赤穂の昔話 第二集』・「猫岩の狐」より)
<前の記事 |
掲載紙面(PDF):
2021年7月31日号(2426号) 2面 (7,567,384byte)
(PDFファイルを閲覧するにはこちらからAdobe Readerを入手してください。)
[ 赤穂の昔話 ]
赤穂の昔話・第13話「知ったかぶりの太郎兵衛」 2020年04月04日赤穂の昔話・第12話「狐の頭巾」 2020年03月14日赤穂の昔話・第11話「コクスケ大明神」(下) 2020年02月22日赤穂の昔話・第11話「コクスケ大明神」(上) 2020年02月08日赤穂の昔話・第10話「えん魔はん」 2020年01月11日赤穂の昔話・第9話「仲のよい三つの岩」 2020年01月01日赤穂の昔話・第8話「おさんさん」(下) 2019年11月30日赤穂の昔話・第8話「おさんさん」(中) 2019年11月23日赤穂の昔話・第8話「おさんさん」(上) 2019年10月12日赤穂の昔話・第7話「桔梗の花」 2019年09月28日赤穂の昔話・第6話「引き受けたおなら」 2019年09月07日赤穂の昔話・第5話「赤穂城の石舟」 2019年08月03日赤穂の昔話・第4話「清水のお地蔵さん」(下) 2019年07月27日赤穂の昔話・第4話「清水のお地蔵さん」(上) 2019年07月20日赤穂の昔話・第3話「天神岩」 2019年07月06日
コメントを書く